予想通りのこと、予想していなかったこと
遠くに海を眺めることができる場所に土地をみつけ、建築家のKさんに設計をお願いして小さな家を建て、暮らし始めて6年が経つ。住宅業界に長く身をおき、ある程度の知識や情報を持っているとはいえ、一戸建てでの暮らしは、予想通りのこともあったし、予想していなかったこともある。無垢の床材のキズやシミは、予想通り
予想は、していた。無垢の杉材は柔らかいから、キズがつくだろうな、ということは。大人ふたりの暮らしなのに、子供もペットもいないのに、やっぱり、6年間暮らしていれば、細かなキズやシミは数知れない。ガサツな性格と言われればその通りだし、こまめにお手入れしないのが悪いのも分かっている。だから、全然、気にはしてはいないのだけど(少しは気にすべき?)。なにより、私たちの場合は、素足でも気持ちがいいこと、自然の素材に囲まれている安心感を求めていたので、暮らしていればキズはつくもの、と割り切っている。
それに、新築時に白っぽかった色は6年経って落ち着いたアメ色になり、点検に来てくれた工務店のTさんは「いい風合いになってますねぇ~」と褒めてくれたし。そう、自然の経年変化は建物も人も、美しいはず。できれば両方とも、もう少し、お手入れした方がいいかもしれないけれど。
<使い勝手にまつわるこれまでのエッセイ>
・自然の素材は覚悟がいる
・掃除のしやすい窓しにくい窓
・ウッドデッキとつながった洗濯物干し場
・ 「ちょい掛け」できる?
・玄関の内側にポストを設けてみたら
・階段下に屋外収納
・「傘立て」の居場所
・玄関脇のウォークインクロゼット
・玄関に160センチの木製バー
・「見える」収納
海辺の土地は、心地いいけど、家には厳しい
遠くに海が望める土地だから少しは塩害の影響も受けるだろうな、と思っていたが、これは予想以上だった。暮らし始めてすぐに庭の樹木は枯れるし、外まわりの金属部分は錆びるし、自転車なんてあっという間に茶色くなった。何度かの台風の経験から、海からの強風の後はできるだけ早く家の外まわりや庭木を洗う、ということは学習した。すぐに水で洗わないと錆びやすくなるし、塩がついて取れにくくなるのだ。けれど6年が経ち、日々の海風はカーポートや庭灯の金属部分を錆つかせ、塩をこびりつかせる。こまめにメンテナンスしてもイタチごっこのようで、正直、少しめげてもいる。
海風は本当に心地いいのだが、建築物には厳しい。それに、洗濯物にも厳しい。海風が湿気を運んでくるので、晴れていても干すことができるのは3時ぐらいまで。これはけっこう、生活のリズムにも関わってくる。「太陽光で乾かしたい派」だったので、浴室換気乾燥機もつけなかったし……。今でも時々、出しっぱなし、のこともあるけど、なんとか早めの取り込みは定着してきたかな。
<海辺の土地での暮らしにまつわるこれまでのエッセイ>
・海が見える暮らしと塩害と
・一戸建ての醍醐味というけれど……
・四季を過ごしてわかったこと
・階段下の商店街
・気がつけば、空き家が
・周辺環境を、買う
・周辺環境の変化の予測は難しい
2階リビング。冷蔵庫の買い替えで、手すりが邪魔に
眺望を重視して2階リビングにしたいと建築家のKさんにははじめからお願いしていた。日々の行き来が面倒とか、夏場の暑さとか、細かいデメリットはあるものの、周囲の緑を見渡せるこの環境での2階リビングのプランは6年暮らしてももちろん大満足だ。2階リビングのメリットデメリットは理解していたつもりだが、完全に欠落していたのが2階キッチンの冷蔵庫の買い替え。引っ越しの際に持ってきた冷蔵庫は問題なく設置できていたので、買い替えの際に2階リビングがネックになるとは思わなかった。
まず、冷蔵庫の2階への設置は、運搬費がアップする。これは仕方ない。問題は階段だ。決して大きい冷蔵庫ではないのだが、折り返し階段を回りきれず、手すりを外して搬入することに。ベランダや窓から引き上げるよりはいいかもしれないけれど、手すりを外して後日付けに来てくれた工務店のTさんには本当に、申し訳なかった。自分でできないことはないのだが、安全のための手すりが素人仕事で危なっかしいのは不安だったので。新しい冷蔵庫ができるだけ長い間、壊れないことだけを祈っている。
<空間づくりにまつわるこれまでのエッセイ>
・大きな家具や家電の搬入は窓から?
・2階リビングの住み心地
・高けりゃいいってもんじゃない
・引き戸がいっぱい!
・対面キッチン わが家の場合
・浴室に掃き出し窓
・どこに置く?自転車
・トイレはふたつ必要か?
・バルコニーで朝食を
・お茶とお煎餅は縁側で
・されど階段
・眺めはいい方が、やっぱりイイ!
・50代の家づくり。わが家の場合
・少し年上の建築家に
庭の樹木の成長が一番の変化だが
新築時には予算もなかったので、庭づくりは自分で頑張ることにした。自己流のガーデニングは、虫にやられ、塩にやられ、試行錯誤の連続だったが、なんとか庭木も厳しい環境に慣れたのか、あっという間に雑木林のような庭となった。大きく成長した庭木のおかげで、塗料が剥げた窓枠とか、シミができてしまった玄関扉とか、少し凹んでしまった雨どいとかがあまり気にならなくなったのは、いいのか悪いのか……。けれど、エクステリアによって建物全体の雰囲気も大きく変わることは実感した。建物だけでなく庭のプランも含めて、わが家色、になっていくのかな。
<日々の暮らしにまつわるこれまでのエッセイ>
・高枝バサミと雪かきスコップ
・試行錯誤の庭づくり
・わが家の網戸モンダイ
・一戸建ては忙しい、かも
・玄関灯と節電と
・わが家のロフトに観葉植物がある理由
完成してから実感。住まいには、かかりつけ医が必要
建築家のKさんに依頼して建てた、小さな家。ワタシたちのこだわりを汲み取って暮らしやすいカタチにしてくれたこともあって、6年経っても不自由を感じることなく、心地よく暮らしている。というか、模様替えもせず、何も変わっていないぐらい、暮らしに馴染んでいる。しかし、当然のことだが家づくりは完成して終わりではなく、経年によってさまざまな不具合や困りごとは起こるものだ。わが家の場合は、台風で軒天に不具合が見つかったり、湿気のためにウッドデッキが少し腐り始めたり、窓サッシの小さなバネが錆びて取れてしまったり、玄関の鍵の調子が悪くなったり。そして、冷蔵庫搬入のために手すりの取り外しが必要になったり、と、細かいことで申し訳ないなと思いつつ、施工をお願いした工務店に相談することもしばしば。
その度ごとに、担当のTさんは、「じゃ、ちょっと、行きますよ」と、見に来てくれる。これは、本当に安心だ。近所に大工さんがいた昔のように、住まいにもかかりつけのお医者さんが必要だとよく言われる。建物の「体調」を把握してくれ、「往診」してくれる、家庭医のような工務店や住宅メーカーの役割を、もっと重視しなくてはいけないと思うのだ。長く快適に暮らすため、建物を維持管理していくためには、自分たちでメンテナンスを行うことはもちろんだが、専門家によるアドバイス、適した補修・修繕が必要だということを、6年暮らして実感している。
<日々の暮らしにまつわるこれまでのエッセイ>
・築4年で変わったこと、変わらないこと
・夏は和室が寝室に。家庭内避暑のススメ
・梅雨になるとカビが……
・部屋の灯りは暗めが好きなので
・暮らしの中には、心地よい音もあれば……
・一生モノの家具
・ダイニングチェアの座面を 張り替えてみた
・模様替えができない
・額に入れれば立派な家宝
・家づくりと夫婦歴