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エネファームを導入してわかったメリット・デメリット

水素と酸素から電気と熱を創り出す家庭用燃料電池「エネファーム」。次世代ZEH+の要素のひとつでもあり、カーボンニュートラルに貢献し、災害時に電源として使えるレジリエンス性にも注目されている。自宅に設置したメリット・デメリットをまとめてみる。

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

わが家がエネファームを導入したきっかけ

ガイドが自宅にエネファームを設置した2016年時点では、エネファームの販売価格は200万円を超え、当時国が出していた補助金を利用しても設置費用の自己負担は100万円以上かかり、非常に高コストだった。そんなエネファームを導入すると決めたきっかけは、単純にそれまで使っていたガス給湯器の劣化が目立ってきたことだ。給湯器がもし冬場に壊れてしまうととても悲惨な目に合う。従って、夏のうちに取り変えようと2016年の初夏に東京ガスに相談したのが始まりだった。
 
戸建て用エネファーム

戸建て用エネファーム(画像提供:東京ガス)


自宅敷地内で発電してお湯も作る家庭用燃料電池「エネファーム」は、当時は現在のように身近なものとは言えず、最初は設置するつもりはなかった。しかし、エネファームのカタログをもらい、説明を受ける中で、これは「あるとよいな」と思う機能がいくつかあり、思い切って導入を決めた。
 

家庭用燃料電池エネファームとは

家庭でお湯を作るにはいろいろな方法があって、従来からある一般的なガス給湯器はもちろん、エコジョーズやエコキュートなど少ない燃料で効率よくお湯を沸かすことができる高効率給湯器や、お湯を作る際に電気も作る創エネ給湯器「エネファーム」などが普及してきている。

エネファームはガスから取り出した水素を空気中の酸素と化学反応させることで発電を行い、その際に出る熱でお湯を沸かす。単なる給湯器ではなく、電気を作り出すという「創エネルギー装置」である点が、同じくガスを熱源とするエコジョーズと大きく異なる。

従来のように大規模発電所から送電線で電気を送るとその途中の廃熱などでエネルギーが失われ、家庭で使用する時には約41%程度まで減ってしまう。その点、家庭用エネファームは、各家庭に設置した燃料電池ユニットで発電し、家庭内で使うため、ロスが少なく約97%のエネルギーを使うことができる。また、一戸あたり年間最大1.4トンのCO2排出量を削減するという(出典:panasonic)。
 

エネファームのメリット

■災害時のレジリエンス機能を搭載
ガイドがエネファームの大きなメリットのひとつと感じたことに、災害時のレジリエンス性がある。災害発生時にタンク内に貯蔵してある130リットルのお湯または水を取り出し雑水として利用できること。そして停電時発電継続機能があり、停電しても専用コンセントから電気が供給されることだ。停電時でもテレビやラジオを付けて情報を収集したり、携帯電話の充電ができる。また、停電時でもエネファームの発電が継続することで、お湯やシャワー、ガス温水床暖房を使うことができる。

近年では自然災害が多発しており、大地震の発生確率も高いと言われる中で、このような災害発生時のレジリエンス(回復)力としてこれらの機能は役立つだろうと考えた。

■補助金がもらえる(国の補助金は2020年度に終了)
「補助金がもらえるのかどうか」ということはやはり大きい。わが家が導入するかどうか迷っていた2016年当時は、エネファームの普及を促進することを目的とした国や自治体からの補助金があったので、それが大きな後押しとなった。エネファームの出荷台数は2021年度末で累計43万台以上となり、販売価格も現在ではものにより100万円を切る水準まで低下してきている(【図1】参照)。国の補助金はその目的をほぼ達成したことから2020年度に終了したが、自治体の補助金は引き続き継続している地域もあるので、導入を検討している人はぜひ調べてみてほしい。
 
エネファームの普及台数と販売価格の推移(出典:資源エネルギー庁)

【図1】エネファームの普及台数と販売価格の推移(出典:資源エネルギー庁)


■ガス温水式床暖房やミストサウナと併用するとメリット大
エネファームはお湯を使えば使うほど発電するので、我が家でも「お風呂は追い焚きをせずに毎日新しいお湯に変える」「お湯と水、どちらも使ってよいならお湯を使う」というアドバイスに従っている。きれいなお湯を毎日気兼ねなく使えるのはうれしいことだ。エネファームのメリットをより享受するには、ガス温水式床暖房やミストサウナがあり、お湯をたくさん使う家が良いという。そのような家で採用すれば初期投資のモトを取ることもできるかもしれない。

 

エネファームのデメリット

■学習しない?「学習機能」
エネファームは基本的に丸一日稼働することはなく、夏場で9時間程度、冬場で15時間程度発電している。どの時間帯に発電させるのか手動で設置することもできるが、エネファームには「学習予測機能」があり、その家庭の生活パターンを予測して、電気やガスを無駄なく使えるような運転パターンを決めてくれることになっている。

メーカーではこの学習機能を利用することを推奨しているが、これがなかなか思ったような動きをしない。発電して欲しい時間帯に発電しないことがよくあるし、丸一日お休みしてしまうこともたまにある。もし生活が不規則な家庭の場合、機械が生活パターンを読み取ることは難しいのだろうと思う。

■設置スペースが必要
エネファームには本体の燃料電池ユニットと、お湯をためておく貯湯ユニット、湯ギレをおこさないようバックアップ熱源機がある。このバックアップ熱源機があるおかげで、いくらお湯を使ってもお湯が足りなくなることはない。しかし、これらを設置するスペースや配管スペースなどが家の周囲に必要になってくる。

■発電中にしか使えない停電時の発電機能
万が一の災害時に役に立つと思っていた「停電時の発電機能」は、説明書をよくよく読むと、エネファームが発電運転中でないと使えないという。エネファームを観察していると、一日の中でも発電していない時間が結構あるので、本当に役に立つのか不安になる(2016年当時)。

注1:2019年モデルより、エネファームが発電停止中に停電した場合、蓄電池、発電機、車のバッテリー等の外部電源からの起動(「つなげて起動」)が可能になった。
注2:2021年モデルより、停電発生に備えて48時間連続発電を行う「停電そなえ発電」機能が搭載された。「停電が起こりそう」という情報を受信すると実際に停電になる前から自動で発電を開始するという先回りの備えである。

※注1、注2ともpanasonic製エネファームに搭載

■6年間は継続して使用するという決まり
契約時に知ったことだが、国の補助金を利用してエネファームを導入した場合、最低でも6年間は継続して使用しないといけないことになっている。もし6年以内にエネファームを処分すると、受け取った補助金は全額返金になるという。ガイド宅では2016年に導入してから無事に処分制限期間の6年間が経過。もうしばらく使用する予定だが、今後何らかの理由でエネファームを処分することになっても補助金を返還する必要はなくなった。
 

エネファーム導入を検討している読者の方へ

国の後押しもあってエネファームの導入は進み、今では身近な燃料電池としておなじみになった。上述したとおり国の補助金は2020年度に終了したが、販売価格はだいぶ低下してきている。また、エネファーム本体の大きさも年々小型化しており、設置しやすくなった。

新しい省エネの家「次世代ZEH+(次世代ゼッチプラス)」でもエネファームはその構成要素の一となっており、これからますます導入が進むと考えられる。災害時のリスクの低減にも役立つというメリットを含め、ぜひ検討をお勧めしたい。

■設置費用のモトを取るのはかなり難しい
ところで、ガイドが自宅にエネファームを導入するにあたり、気になったのは「設置費用のモトは取れるのか?」ということだった。たくさん発電してくれれば電気代が安くなり、いつかモトは取れるはずだ。ざっくりと「10年くらいで元が取れればよい」と考えると、設置する際にかかった自己負担費用100万円の元を取るためには1年で10万円くらい発電できれば良い。
 
平均的な4人家族の我が家でエネファームが発電した電気量(2016年9月~2022年8月)

平均的な4人家族の我が家でエネファームが発電した電気量(2016年9月~2022年8月)


エネファームでは発電量などのデータを見ることができる。それによると一般的な4人家族・床暖房なしの我が家が設置後6年間で発電した電気は計18344Kwh(531,976円分)、森16こに該当するCO2削減が実現できた。このままのペースで行くと10年間で90万円弱分くらいの発電をしそうである。まずまずのペースかと思う。もし温水式床暖房やミストサウナなどがあり、お湯をよく使う家であれば、もっと発電量は上がっただろう。

■モトを取るという考えを捨て、環境貢献や災害時の安全対策と考える
もし、「モトが取れるかどうか」ということを重視したいなら、エネファームは向かないかもしれない。それよりも、災害時に役立つ機能があることや、少しでも省エネをして環境に貢献したいという考え方ができるなら導入の価値があると思う。

■「見える化」でエコ意識が高まる
これまで実際に使ってみてメリットに感じたことやデメリットに思ったことなどを挙げてみたが、一番良かったのは家族のエコ意識が高まったことだ。

エネファームのエネルックリモコン(画像提供:東京ガス)

エネファームのエネルックリモコン(画像提供:東京ガス)


わが家ではエネファームのモニターをリビングから見やすい位置に取り付けてもらった。モニターでは、毎日の発電量やCO2削減量などが一目でわかりやすく、色付きグラフで表示される。前日の分も表示されるので「昨日と比べ今日はどうだったかな」とのぞく楽しみもある。また、家の中で現在使用(購入)している電気の量もわかるので、自然と節電意識が高まる。

各家庭でこのように使用しているエネルギーに興味を持つこと、節電意識を持つということが省エネにつながっていくことは明らかだ。エネファームを導入する一番のメリットはそんなところにあると思う。

 

これから導入が進む マンション用エネファーム

世界に先駆けて東京ガスが日本でエネファームを発売した2009年頃、エネファームに期待されていたことは省エネ、省CO2といった環境への配慮だったが、現在ではそれに加え災害時のレジリエンス性も注目されている。

エネファームは機械の設置スペースを必要とするため、これまでは主に戸建て住宅を中心に導入が進んできたが、これからはマンションに導入するケースも増えてくるだろう。その場合、外廊下やバルコニーに設置されることになる。もっと導入を増やすためには、エネファームの小型化や、見た目の美しさなども進化する必要があるだろう。

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