■教会や学校、病院などの名建築

カトリック豊島教会(1956年)

西武池袋線で池袋から1駅の椎名町駅すぐそばに建つ教会。場所としては要町から西池袋エリアにあり池袋駅からも徒歩圏内。存在は知っていたのですが訪れたのは今回がはじめてでした。設計はアントニン・レーモンド。 レーモンドはフランク・ロイド・ライトの弟子として1919年に来日して帝国ホテルの設計を任された後、日本国内にたくさんの名建築を残したことで知られています。

戦前の1920年代の東京女子大の設計や、聖路加病院(1928年)のデザインが有名ですが、戦後のミッドセンチュリー期に建てられたこの建築はレーモンド作品としてあまり語られないような気もします。「聖パトリック教会」とも呼ばれるこの建築は、コンクリート打放し仕上げで、円形のステンドグラス、雁行する壁、広い曲線を描く庇などがうまく調和しています。幾何形体を基本に構成されたモダンなレーモンドの意欲作です。
れーもんど

レーモンド設計の知る人ぞ知る名作。ステンドグラスはレーモンド婦人によるデザインです。


せいどうないぶ

聖堂の内部。コンクリート打放し仕上げにモダニストであるレーモンドの哲学を感じます。天窓、ステンドグラスなども祈りの空間にふさわしい演出となっています。


目白が丘教会(1950年)

教会つながりで目白にあるバブテスト教会にもいってみました。目白駅近くの住宅地に建つこの建築の設計はフランク・ロイド・ライトの日本での共同設計者の一人である遠藤新です。なんといっても特徴は天に伸びる鐘塔。大谷石を使ったエントランスの意匠のディテールなどに、ライトの影響が感じられる箇所が多く見られます。

目白の教会といえば、丹下健三先生の「東京カテドラル聖マリア大聖堂」が世界的に評価が高く、シルバーに輝く近代建築の名作として知られています。丹下先生ご自身もこの教会に眠っておられますが、あまりにも有名すぎるので今回はパスすることに。見てない方は必見です。逆に、大聖堂の影に隠れがちな、こうした街の小さな教会も魅力的だな、と思いました。
えんどうさん

軒裏の丸い穴がポップな感じもするデザイン。さまざまなディテールにアイデアが見られる凝った意匠です。
 

めじろがおか2

大谷石を使ったエントランスには明らかにライトの影響が感じられます。


聖母病院(1931年)

目白に来たので、戦前の洋風建物として知られる聖母病院も見てみることにしました。目白が丘教会から西へ歩いて数分のところにある総合病院で、特に産科が有名です。昭和初期に建てられたこの建物は東京都の歴史的建造物にも指定されています。設計はスイス人建築家のマックス・ヒンデル。実は、ヒンデルについては、よく知りませんでしたが、今回、調べてわかりました。ヒンデルは大正末期から昭和初期にかけて札幌に3年あまり滞在し、その後、横浜に移住し16年にわたり日本で設計活動を行った建築家です。
せいぼ

レンガタイル張りやコーナー部のアールなどの表情がやさしい表情の建築。昔あった雰囲気の良いチャペルは新しく建てかえられていたのは残念でした。

ヒンデルは、1916年、チューリッヒで設計事務所を開設し翌年ウィーンに行き、なんと、セゼッション期の巨匠オットー・ワグナーに短期間、師事したそう。その後1924年に来日し、札幌で円形プランの住宅、札幌高等女学校、自邸、そして新潟カトリック教会などの設計を行っています。当時の日本人建築家がインターナショナル・スタイルに傾倒していくことを危惧していたそうです。知りませんでした! もっと、評価されてもいい日本の近代建築に貢献した建築家の一人だと思います。(参考文献:「北海道大学工学部研究報告第83号『建築家マックス・ヒンデルMAX HINDERの経歴について』角幸博、越野武」1977年)



自由学園明日館(1921年)

この建築は大正時代建築マニア(?)の方々には、よく知られた建物ですね。設計は、アメリカが生んだ巨匠、フランク・ロイド・ライト。共同設計は、先に紹介した遠藤新です。軒高を低く抑えて水平線を強調したファサード、幾何学形態で構成された建具類とライト独特のデザイン・ボキャブラリーで設計されています。これはライトの一連の「プレーリー・ハウス(草原様式)」と呼ばれるスタイル。日本での2×4構造のさきがけともいわれる木造建築で、大谷石が多用されているのも特徴です。
あすかかん

重要文化財ですが「使ってこそ価値がある」との考え方でいわゆる「動態保存」として各種イベントにも貸し出しが行われています。ここからも遠くにサンシャイン60が見えます。


自由学園は大正時代にできた女学校で明日館はその校舎として作られました。ホールは女学校当時、生徒が毎朝の礼拝をしていた場所。現在はウエディングにも用いられ、ここで結婚式を上げる人々には建築デザインの関係者が多い、という話を聞いたことがあります。

なんといても、この建物は国の重要文化財。池袋エリアで、真っ先にチェックしたい建築といえるでしょう。内部の見学には入館料が必要で、休館日などもありますので事前に確認して訪れてください。

らいとたてぐ

建具まわりの詳細。斜めの線の使い方など幾何学的でライトらしいデザインですね。


雑司が谷旧宣教師館(1907年)

こうして見ていくとキリスト教関連の施設が多い池袋。もうひとつ古い建物を紹介しましょう。巨大な霊園があることで知られる、雑司が谷に建つ明治40年竣工の木造洋風建築です。アメリカ人宣教師のジョン・ムーディー・マッケーレブが昭和16年に帰国するまで34年間を過ごした住宅。豊島区の登録有形文化財で、東京都指定有形文化財(「旧マッケーレブ邸」)にも指定されています。

19世紀後半のアメリカの郊外形住宅「カーぺンター・ゴシック」と呼ばれるスタイルで、昔のアメリカ映画に出てくるような質素な印象のたたずまいが魅力的。明治時代の雑司が谷の住人たちは、きっとこのハイカラな洋館をとても珍しく新しいものに感じたことでしょう。
せんきょうしかん

アール・ヌーボー風の暖炉などがあるインテリアの見学も可能ですが、開館時間、休館日などを確認して、古き良きアメリカン・スタイル・ハウスを堪能しに、ぜひ出かけてみてください。


鬼子母神堂(1664年/寛文4年)

キリスト教関連の建物が続いたので、著名な寺院建築も紹介しましょう。雑司が谷エリアにある、日蓮宗の法明寺(ほうみょうじ)境内にある鬼子母神堂です。東京都指定有形文化財にも指定されています。構造は権現造り(ごんげんづくり)と呼ばれるもので、拝殿が入母屋造り(いりもやづくり)、本殿側が流造り(ながれづくり)で、少し変わった屋根の形が特徴。神社仏閣ファンにはおなじみの聖地です。
きしぼじん

参道は都心部とは思えないケヤキ並木があり、境内には大きなイチョウの木があります。これらは都の指定天然記念物! この森を楽しむだけでも行ってみる価値があります。

鬼子母神のある東池袋の雑司が谷エリアは、緑が多く曲がりくねった道がつづいていて迷いやすいのですが、それも楽しい。ここと先の宣教師館をめぐった後で、夏目漱石、竹久夢二、永井荷風、小泉八雲など文豪たちや、なんと、ジョン・万次郎(!)のお墓があることでも知られる「雑司が谷霊園」にお参りするコースもオススメです。

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