相性の良くないものも、ごく一部あります!
この靴はアッパーの「地の色」がベージュで、その上から紫や黒の染料を靴になった後から重ね塗りしたものです。この種の革に液体クリーナーを用いると、つま先部分のように不自然な色むらを起こしてしまう場合もあります。 |
前のページで申し上げたように、使い方さえ間違えなければ、スムースレザーの表面の汚れを正に拭い去る(そう、この表現が最適!)事を通じて、靴の寿命を確実に上げてくれるのが、液体クリーナー優れた点です。要は優秀な薬と一緒で、役にも立つし毒にもなってしまうものなので、その境界線は用いる人の知識次第と申せます。ですので、以下のような「使用しない方が痛い思いをしないですむケース」も、知っておいたほうが明らかに有益だと思います。
小生の経験から申し上げると、まずアッパーの地の色の上から靴クリームではなく、顔料や染料等で全く別の色を直接上乗せしたような靴。これらについては、下手をすると上の写真のように靴の色自体が不自然にムラになってしまう可能性があるので、どのメーカーのものであれ液体クリーナーは用いない方が無難です。実はこの種の「お手入れに難儀する厚化粧系の仕上げ」は、靴の価格の高低や原皮の良し悪しにかかわらず、目立った批判もなく異様にもてはやされているのが昨今の現状なのですが、これって一体どうなんだろう?
それから、近年のイギリス靴に一部用いられている、「ポリッシュドバインダー」と呼ばれる一種のガラスレザー(銀面を削った上で顔料等を吹き付け、表面を均一化させ光沢を出した革)についても、これを用いるとどうも表面にベト付きやガサ付きが微妙に起きて、当初の光沢が回復し辛い傾向にあります。かつてその前任者だった「ブックバインダー」なる名前の革や、 Allen Edmondsのコンビサドルシューズに使われている同様の「ポリッシュドコブラー」、それに REGALのローファーに用いられているような一般的なガラスレザーでは、全く全く、問題が起こらないことを考慮すると、どうもこの革の鞣し剤・仕上げ剤との相性が良くないのかな? まあ、その表面の性質上、水拭きだけで汚れは十分落とせる革ですので、それほど神経質になることはないのですけど。
あと、油性のワックスが厚く入り過ぎてしまった靴、液体の靴クリームが厚くこびりついてしまった靴についても、液体クリーナーだけではではそれを落とし切れない場合があります。前者はシミ抜きに用いるベンジンで何とかなりますが、後者ですと最悪「ペイント薄め液」のようなシンナー系の溶剤に頼らざるを得なくなる場合もありますので、液体クリーナーを1・2回慎重に用いても拭い切れなかった場合は、これらを用いることを検討してみて下さい。ただし、これらを用いると、スムースレザーの地の色が抜ける場合も多いので、予めご覚悟の程。
いかがでしたでしょうか? 小生がこの種の「栄養分が付加されていない液体クリーナー」を使い出したのは1990年代のはじめ、現在は廃盤となったコロンブスの「BLACK LOTION」なる黒のスムースレザーに最適と謳った商品が登場した時からだったと思います。以来段階と経験を重ねて(この「段階」「経験」なる言葉、どの世界でも最近重んじなくなりましたね。実はこの辺りにもこの種の問題の真の原因があるような気がするのですが、それについては稿を改めましょう)、各メーカーの様々なものを前ページのようなやり方で用いていますが、問題を起こしたことは特にありません。最近ではコードヴァンや、かなり応用編ですが状況次第では起毛系の革にも平気に使う商品もあるくらいです。何度も書きますが、用い方さえ間違わなければ効果は確実にあります。そうでなければ、各社が発売自体をしない筈ですので、注意点をしっかり認識した上で活用されてみて下さい。
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