忘れられないバルセロナのモヒート

Bar,Kのテーブル席
Bar,Kのテーブル席
わたしがそれまでに最も「旨い」と実感したモヒートはスペインのバルセロナ、『ボアダス』というバーで飲んだ一杯で、これが強烈な印象として残っている。
酒というのは気候、風土、場所、時間、飲み手の精神状態ですこぶるつきの旨さになることもあれば、なんだか凡庸になってしまうこともある。『ボアダス』ではすべてがピタリとはまったのだと思う。そういう時の一杯はセックスなんかよりはるかに心地よい、極めつけのセクシーさとなる。

12、3年前のこと、8月のスペインの長旅でかなり疲れ果ててバルセロナにたどり着き、暑い盛りの午後2時に『ボアダス』に飛び込んだ。スペインの業界ではよく知られたバーテンダー夫妻に「もうシエスタの時間だから、2杯くらいしか飲ませられない」と言われ、こちらもそうしたい、ただ疲れ果てていてどうしても強いのを飲みたい、と伝えると、「それなら、わたしのモヒートを飲めばいい」と言って奥さんがつくってくれた。
奥さんのモヒートは、彼女の父親ゆずりのものだ。その父とはキューバからスペインに渡ってきた人で、1920年代だか30年代だかにおこなわれた第一回マルティニ・カクテル・コンテストの優勝者である。
この一杯がとびっきりの旨さで脳天にまで響いた。ゴールドラムがズンと利いた中にミントの香味が涼風のようにそよいでいた。これこそ生命の水。すべて解き放たれた感覚となり、地中海の青と空の青の中に浸り切るような心持ちになった。脳天が痺れるような恍惚感に溺れた。
その感覚がいつまでも心の芯に残っていた。だから松葉氏にそうは期待しなかったのだ。

まっちゃんモヒートも脳天に響く

ところが。まっちゃんのモヒートも首筋から脳天へと心地よく響いた。『ボアダス』がジーンとした響なら、まっちゃんのはカキーンとした響だ。
松葉氏のモヒートのつくり方は『ボアダス』とほぼ同じだった。枝付きミントをガバッと入れ、クラッシュドではなくクラックド・アイスを使うところなんぞ、『ボアダス』やカリブの国々で飲んだモヒートと似ている。でもつくり手によって味わいは変わる。まっちゃんモヒートはラムの持つ旨味をベースとしながら甘酸のバランスのよい爽やかさがある。しなやかさだ。繊細な日本のバーテンダーの仕事ぶりである。そしてグラスにはサトウキビがぶっ込んである。あえて写真は載せない。意地悪だが是非店に行って、確かめて欲しいからだ。
以来、モヒートはまっちゃんと決めている。他の店では、ウイスキー・ベースとなり、ミントジュレップばかり飲んでいる。あれから5、6年経った2007年、松葉氏はハバナクラブのカクテルコンテスト・モヒート部門でグランプリを受賞した。やっぱりな。旨いもの。
『Bar,K』ではオリジナル・ハイボールとモヒートを絶対飲みなさい。

最後にモヒートとモジートの違いをよく聞かれる。同じだ。綴りはMojitoで、スペイン語ではモヒート。英語に準じたカクテルブックだとモジートと表記され、混乱が生じている。それだけのこと。

店内
 
Bar,K
大阪市北区曽根崎新地1-3-3 好陽ビルB1
tel.06-6343-1167
18:00~2:00(土~24:00)日祝休
チャージ¥500、ウイスキー¥800~、カクテル¥1,000~

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