オリジナル・ハイボールを飲め

松葉道彦氏
香味の探究心旺盛な松葉道彦氏
大阪『Bar,K』の松葉道彦氏といえばボウモアと秀逸モヒートである。何故かを話すと長くなるので、後にまわすとして、店の基本情報として、とりあえずのおすすめを述べておく。
松葉氏が前に立つカウンター席に着いたなら、まずはオリジナル・ハイボール(¥1,000)をオーダーするといい。
これは、いつも同じ香味とは限らないから面白い。松葉氏がハイボール用にと、カクテルの調合の感覚で、4~5銘柄のシングルモルトウイスキーをブレンドしているからだ。それをデカンターに詰め、なくなるとまた新しいハイボール用ヴァテッドウイスキー(この表現が正しいかどうかはわからない)を生み出す。時にアイリッシュウイスキーも使われていたりもする。
ハイボールがブームとはいえ、まだ、そんなに多くのバーで試みられていないことだから、一度は飲んでみていただきたい。
安定した香味の素晴らしいスタンダード・カクテルをつくるウイスキー好きのバーテンダーのオリジナル・ハイボールとはどんなものか、じっくりと味わってみるといい。

ボウモアで盲腸になった男

松葉氏作オリジナル・ハイボール用ヴァッテッドウイスキー
松葉氏作オリジナル・ハイボール用ヴァッテッドウイスキー
では、松葉氏とボウモアの話をしよう。
10年は経ってはいないと思うが、かつて松葉氏は、アイラ島のボウモア蒸溜所を訪ねた時に盲腸になるという特異な体験をしている。エマージェンシー飛行機で搬送され、グラスゴーの病院で手術をした。その時に彼を手厚く看護したのが当時のボウモアのブランドアンバサダーで、現在ブリックラディック生産担当役員のジム・マッキュアン氏である。
わたしはその話を聞いたとき、松葉氏には申し訳なかったが腹を抱えて笑ってしまった。まっちゃんのこともジムのこともよく知っているので、旅先での不安と皆に迷惑をかけている情けなさ、でも腹が痛くてうんうん唸るしかない状況のまっちゃんの傍らで、熱い口調ながらえらく落ち着いた顔で「大丈夫だ、心配ない」と励ましているジムの姿が浮かんだのだ。
あまりにも想像がつき過ぎる絵で、可笑しくてしょうがなかった。それ以来、松葉氏の名を耳にすると、すぐさまボウモア蒸溜所、ボトル、カモメ、エマージェンシー飛行機、ジムの顔がコラージュとなって頭の中の額縁に見事に収まるようになってしまった。

もうひとつ、松葉氏といえばモヒート(¥1,300)である。夏になると松葉道彦氏の旨いモヒートが恋しくなる。気持ちが萎えるというよりはアイスクリームみたいに身体が溶け崩れそうになるサウナ的な熱波の大阪に行くと、いつも「まっちゃんのモヒート、モヒート」と呟きつづけてしまう。
ボウモア盲腸事件から間もなくして、松葉氏は今度はキューバを旅した。そのあとすぐにわたしは店に行ったのだが、「モヒートを勉強してきました」と得意気に彼は言った。パパ・ヘミングウェイが入り浸った店でたくさん飲んで帰ってきたらしい。でも、彼のモヒートはきっと旨いだろうが、わたしの中の一番にはならないだろう、と思っていた。

では次頁で、わたしのモヒートの思い出とともに、松葉氏の一杯の旨さについて語る。(次頁へつづく