マーケティング/マーケティング事例

サントリーを3位に導いた「囚人のジレンマ」(4ページ目)

夏本番を前に、熱い戦いを繰り広げるビール大手各社。2008年の夏は、ビール業界の序列にちょっとした異変が起こりました。万年4位だったサントリーが念願の3位に浮上したのです。果たしてその理由は?

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

囚人のジレンマとサントリー躍進の関係とは?

前ページでお伝えした囚人のジレンマはゲーム理論のモデルケースですが、実際のビジネスでも同じような現象が数多く見受けられます。

たとえば、最近原油価格や穀物相場の高騰でビール各社はコスト増に頭を悩ませてきました。ここで各社の考える対応は価格の据え置き、もしくは値上げということになります。原材料の高騰でビール各社の利益率は圧迫されていますから、各社が足並みを揃えて値上げをして少しでも売上を上げて、できる限り多くの利益を確保したいところです。そこで悩ましいビール各社の対応と売上を表にしてみると次のようになります。
『囚人のジレンマ』はビジネスにも応用可能。

ここで「囚人のジレンマ」に基づけば、各社は価格据置行動に出るはずです。

ただ、さすがに原材料コストのここ最近の急激な上昇は価格据置という対応を取ることは収益の悪化に繋がりますので、企業によっては売上よりも利益優先ということで、キリン、アサヒ、サッポロは値上げという選択を取ることになったのです。

ここで各社が値上げを断行する中、「囚人のジレンマ」に基づけば、価格を据え置くことで自社のみ大幅な売上アップを図ることが可能になります。そこでサントリーはマーケットシェアを大幅に上げるべく、価格据置という戦略を採用することになるのです。

ただし、価格据置で売上がアップしたからと言って、昨今急激に上がるコストの状況次第では利益がマイナスになる可能性も高くなりますので、サントリーはビール需要がピークを迎える9月まで限定的に売上アップを至上命題として、「囚人のジレンマ」戦略を実行に移したということになります。そして、「囚人のジレンマ」戦略が功を奏して、遂に3位のサッポロビールを捉えて念願の3位に浮上したというわけです。

「囚人のジレンマ」戦略で見事シェアアップを果たし、3位に浮上したサントリーですが、ビール大手4社が値上げで足並みを揃える9月以降、果たして現状のマーケットシェアを維持できるのか?

サントリーにとって、暑い夏の終わりに始まる“終わらない熱い戦い”の第二幕が正念場と言えるでしょう。

【今回のよくわかるマーケティングのポイント】

1.囚人のジレンマとは?・・・
ゲーム理論の1つの代表的なモデル。個々としては最適の選択をしたつもりでも、最終的にはベストな結果を得られないという事例。

2.ビジネスにあてはめると・・・
お互いに協調して値上げを行えば、お互いに価格を据え置くよりも売上アップが見込めるとわかっていても、相手がどのような対応を取るのかが事前にはわからず、一社のみが価格を据え置けば単独で売上を大幅にアップされる可能性があるために、お互いに常に相手を裏切る誘惑に駆られる。

3.ビジネスで『囚人のジレンマ』を活用すると・・・
今回のビール業界のように、相手の出方が事前に分かれば、それに呼応して自社の対応を決定すれば、最高の結果を得ることもできる。


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