営業で受注率を上げたい……見込みが薄いのに捨てられない理由
選択と集中のために顧客リストを見直す
ちょっと過激な表現に聞こえるかもしれませんが、優秀な営業マンは、上手にお客さんを捨てることができているものです。「これ以上商談を続けても、契約が成立する見込みは薄いな」と判断したときに、スパッと見切ります。そして自分の時間とエネルギーを、見込みの薄いお客さんに対してではなく、新しいお客さんに注ぐことで、高い成績を維持しているのです。
逆に成績が伸びない営業マンほど、見込みの薄いお客さんや案件を引きずってしまいがちです。そして結局商談が不調に終わってしまい、時間ばかりをロスしてしまうわけです。
ですから営業成績を伸ばしたいなら、「お客さんを捨てる力」や「見切る力」がとても大切になります。
とはいうものの「捨てろ」と言われても、「そんな勇気は持てない」という人がほとんどでしょう。
捨てるということは、そのお客さんとの商談が成立する可能性を自分からゼロにしてしまうことを意味します。お客さんの方から断られてしまったのならまだしも、自分の方から断ってしまうなんてもったいないという意識がどうしても生じがちです。
また捨てれば捨てるほど、手持ちの顧客リストの数もどんどん少なくなってしまいます。「自分にはたったこれだけのお客さんしかいないのか」と思うと不安になり、たとえ見込み薄のお客さんでも確保しておきたいという気持ちが強くなってしまう。だから捨てられないのです。
捨てる決断には「情報」がカギとなる
上司に協力してもらいながら、顧客選別を行おう
それは「持っている情報量の差」だと私は思っています。
捨てられない営業マンは、お客さんや商談の状況についての情報が圧倒的に不足しています。上司から営業活動の進捗状況を聞かれたときも、曖昧な返事しかできません。
上司:「この案件、クロージングにまで持って行けそうだと思う?」
部下:「たぶん大丈夫だと思います」
上司:「何でそう思うの?」
部下:「前回の商談のときに担当者の方が『上司を説得して何とか今月中に決めますよ』と力強く言ってくれたからです。かなり本気の言い方だったので、たぶん大丈夫だと思います」
上司:「その上司の方というのは、この案件についてはどんな感想や意見を持っているの かな?」
部下:「いや、それはちょっと……。上司の方にはお会いできていないので……」
上司:「そもそもうちの商品を購入いただける予算は、先方にあるのかな」
部下:「それもちょっと聞いていないです」
上司:「うちの競合は?」
部下:「たぶんいないんじゃないかと思うのですが……。わかりません」
というように。
情報が不足しているから、「このお客さんは見込みがあるか、見込みが薄いか」の判断もできません。だから見切る決断もできないわけです。
一方優秀な営業マンは、しっかりと状況を把握しています。上司から進捗状況を聞かれたときも、明確な言葉で答えられます。
上司:「この案件、クロージングにまで持って行けそうだと思う?」
部下:「90%の確率でほぼ大丈夫だと思います」
上司:「何でそう思うの?」
部下:「前回の商談のときに、総務部長がはじめて同席されたのですが、この方が私の提案を身を乗り出すように聞いていたからです。大きな手応えを得ました」
上司:「A社の場合、総務部長がキーパーソンなの?」
部下:「ええ、先方の担当者の方からはそのように聞いています。私も先日部長と話していて、社内で強い発言権を持っていると感じました。とはいえ最終決定は来週の役員会を通さなくてはいけないとのことなので、今それに向けて資料を作成しているところです」
上司:「競合の状況は?」
部下:「担当者の方の口ぶりからして、ほかに1社いたのですが、価格面で折り合いがつ かず断念したようです」
上司:「そうか。じゃ期待できるな。がんばれよ」
部下:「はい。がんばります!」
というように。
優秀な営業マンは情報をしっかり収集しているから、自信を持って「このまま商談を進めるか」「それとも見切るか」の判断ができるのです。
多様な観点から情報収集をすることが大事
顧客選別の過程でもあなたの営業スキルが磨かれる
・こちらの商品に対して、担当者はどれぐらい興味を示しているか
・キーパーソンは誰か。キーパーソンは商品にどれぐらい興味を示しているか。キーパー ソンに接触することはできているか
・先方の決裁プロセスはどうなっているか。今商談は、決裁プロセスのどの段階にあるか。
・こちらの提案に対して、魅力を感じている点と不満を感じている点は何か
・商品を購入するための予算はありそうか
・競合はいるか? いるとすればその状況は?
こうした情報を誰から収集するかと言えば、もちろん先方の担当者からです。先方の担当者の発言や顔色、反応などから状況を探っていきます。
たとえば商談が終わった直後は、お客さんも緊張感がゆるんでいます。そんなときに「ちなみに商品を購入するかどうかの判断は、田中さんに一任されているんですか?」などとさりげなく質問すると、「私にはそんな権限はありませんよ。実質的な決裁権は総務部長が持っています」と、あっさりとキーパーソンを教えてくれたりするものです。
優秀な営業マンは、こうした機会を見逃さず情報収集にあたっているわけです。そして多面的な観点から、「このお客さんは見込みがあるかないか」を判断し、最終的な決断をしているのです。
お客さんをスパッと捨てることができず、いつも案件をずるずると引き延ばしてしまいがちな人は、ぜひ多面的な観点から情報収集をすることを心がけてみてください。
お客さんの状況を把握するための観点は、先ほど私が挙げた以外にもたくさんあると思います。今自分が抱えている案件について、上司や同僚に相談してみるのもいいでしょう。「見込みがあるかどうか」を見極めるための思わぬ観点を提示してくれることがあるものです。
そして「これは見込みが薄いな」と判断したら、きっぱりとあきらめましょう。自分の中で区切りをつけて、次の案件に集中するのです。
営業マンが見切ると、お客さんの方から連絡してくる!?
追うのを止めれば、お客さんがあなたを追いかけてくれることも
これにはカラクリがあります。
営業マンが見切りをつけて売り込みをやめてしまうと、お客さんもそのことに気づきます。するとお客さんは急に「惜しいことをしてしまったかもしれない」という後悔の念が出てきます。
お客さんは商品に対して興味がないわけではないから、これまで営業マンと商談の場を設けてきました。けれども営業マンから盛んに売り込みをされていたときには、「興味はあるけれど、今買うほどの商品ではない。まあいつでも買えるからね」と思っていました。つまりお客さんは心理的に余裕がある状態でした。
ところが売り込みをされなくなると、「もしかしたらすごくおいしい話だったかもしれないのに、チャンスを逃してしまった!!」と、急に余裕がない心理状態に陥るわけです。それで自ら営業マンに電話をかけてくるのです。
営業マンがお客さんを追いかければ、お客さんは逃げていく。営業マンが一歩引くと、お客さんの方から近づいてくる。何だか男女間の恋愛の駆け引きに似ていますが、そういうことがしばしばあるのです。
ともあれ営業マンは、「見込みが薄い」とお客さんは、勇気を持って捨てることが大事。みなさんも多面的な観点からお客さんについて情報収集をしながら、「お客さんを捨てるか捨てないか」を判断するための決断力を磨いてください。
「捨てる力」があなたの営業力を高めます。
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