予防接種、市販薬、コンタクトレンズ代…医療費控除の対象?

毎年、確定申告シーズンを迎えると、必ず質問されるのが「これは医療費控除になりますか?なりませんか?」ということです。

医療費控除にまつわるいろいろな噂が多いのも事実です。「温泉療養もOKらしい」だとか「市販の風邪薬がOKなら、医師に処置してもらったインフルエンザの予防接種もOKでしょう」……。いったい何が真実なのでしょうか。考え方を整理してみました。

医療費控除のそもそもの定義

判断に迷ったら税法に立ち返る。これが税務実務では基本となります。まずは税法の条文において、医療費控除を受けられる医療費の範囲がどのように規定されているのか紹介しておきましょう。

医療費の範囲は所得税法施行令207条において「医療費の範囲に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする」とあります。

その後、「次に掲げるもの」を受けて、「医師又は歯科医師による診療又は治療」「治療又は療養に必要な医薬品の購入」「病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供」などという記載が続きますが、いわば、これは「次に掲げるもの」の例示規定といっていいでしょう。

医療費控除の対象になるかどうかの判断基準

このように、所得税法には医療費控除に該当するものすべてが書かれているわけではないので、毎年「これは医療費控除になりますか? なりませんか?」という質問を受けるのだと思います。しかし、この例示規定をよく見ると、あるキーワードが隠されています。

そのキーワードとは、次の3つです。
  • 医師又は歯科医師
  • 治療又は療養
  • 病院、診療所又は助産所

例えば「医師又は歯科医師」からは「一定の資格を有する人」ということが読み取れますし、「治療又は療養」からは「医療の目的」が、「病院、診療所又は助産所」という箇所からは「一定の施設」ということが読み取れますね。

医療費控除の対象になるもの・ならないもの一覧

表は、一般的に医療費控除に該当するものとしないものをまとめたものです。

医療費控除になるものとならないものの例。あくまでも代表的なケースです(表は筆者作成)

医療費控除の対象になるものとならないものの例。あくまでも代表的なケースです(表は筆者作成)


医療費控除の対象となるのは、いずれも医師や歯科医師など一定の資格者がかかわったものだと読み取れるでしょう。さらに、薬局で購入した風邪薬に代表されるように、医療の目的が問われるものは「○(医療費控除の対象となる)」です。

一方で、単なる転地療養が「×(医療費控除の対象とならない)」であることから、一定の施設でなければ医療費控除の対象外という考え方が読み取れます。

治療が目的なら医療費控除の対象

したがって、例えばカイロプラクティックなら、医師やあん摩・マッサージ・指圧・柔道整復師が行う場合には医療費控除の対象となりますが、資格を有しない人が行う場合には対象外となります。

また、コンタクトレンズや眼鏡の類も医師により治療上必要とされ、治療方法に合致するものであれば医療費控除の対象となります。「不妊治療」も目的が治療ですから、医療費控除の対象ということになるのです。

【参考】出産における医療費控除の対象:不妊治療や人口受精、妊婦健診など

美容・健康維持・予防が目的なら医療費控除の対象外

反対に、医療費控除に該当しないものにも共通のキーワードが見出せます。例えば、
  • 予防接種の……
  • 美容のための……
  • 疲労回復
  • 健康増進
などです。

インプラントや歯列矯正の費用は「咀嚼障害のため」であれば医療費控除の対象となりますが、「美容目的」ということであれば対象外となります。つまり、治療・療養目的であれば医療費控除の対象になりますが、健康維持や治療・療養目的以外であればNGということです。

治療のための風邪薬の購入費は、市販薬であっても医療費控除の対象になりますが、インフルエンザの予防接種は医師に処置してもらったものでも「健康維持のため」となるので、医療費控除の対象にならないのです。

また乳幼児のいる家庭で、B型肝炎やおたふく風邪、ロタウイルスなどの予防接種を任意(自費)で受けさせるケースもあるでしょう。この際の費用も、目的が「予防」なので、原則的には医療費控除の対象外です。

ただし、家族にB型肝炎の患者さんがいて、医師のすすすめでB型肝炎ワクチンを接種した場合は、医療費控除の対象となります。

【参考】B型肝炎ワクチンの接種費用|所得税目次一覧|国税庁

医療費控除の対象は時代にともに変わる

ただ、福祉の充実といった政策も関係し、また、医学の世界が日進月歩であるため、医療費控除の対象も徐々に拡大傾向にあります。

●近年、医療費控除の対象に加わったもの
例えば近年の税制改正では、以下のようなものが医療費控除の対象として認められました。

●メタボ健診で指導を受け、医療費を支払った場合は注意
メタボリックシンドロームに関する特定健康診査(いわゆるメタボ健診)の結果により特定保健指導を受け、その対価を支払った場合の処理については、近年誤りが多いようです。

メタボ健診の結果、メタボリックシンドロームに該当、または高血圧症や脂質異常症、糖尿病と同等の状態であると認められる基準に該当したとします。その人に対し、医師は「動機付け支援」と「積極的支援」を行う場合がありますが、このうち「動機付け支援」として行われる特定保健指導の指導料は、医療費控除の対象となる医療費に該当しないこととされています。

ただし国税庁によれば、特定保健指導の指導料が医療費控除の対象となる場合は、その旨が明示された領収書が発行されます。その記載内容にしたがって処理をすればいいでしょう。

市販薬を買って節税!? 医療費控除の特例が新設に

なお平成28年度税制改正大綱により、市販薬に関する医療費控除の特例が新設されています。市販薬なら何でもOKということではなく、医療用医薬品のうち、市販薬に転用(スイッチ)された一定の医薬品がカウンター越し(オーバー・ザ・カウンター)に販売されることから、この新税制をスイッチOTC税制とも呼んでいるメディアもあります。

●期間
平成29年1月1日~平成33年12月31日
なので、最初の確定申告で適用となるのは平成30年3月期申告です。

●特例の対象となる人・ケース
健康増進への一定の取り組みを行っている人とあるので、下記のいずれかを受けている必要があります。
  • 定期健康診断
  • 特定健康診査、いわゆるメタボ健診
  • 人間ドック
  • 市区町村で行うがん検診
  • 予防接種
それを証明する書類として、確定申告する人の予防接種の領収書や健診結果通知表などのコピーを確定申告の際に提出することになります。この特例を受けるためには必要となる書類ですのできちんと保管しておきましょう。

●所得控除の金額
1年間に支払った費用が世帯合計で1万2000円を超えるとき、その超える分の金額が課税所得から差し引かれ、減税となります。所得控除の最大限度額は8万8000円です。

どんな市販薬が控除の対象になっているのか
対象となる医薬品は、医療用薬品のうち市販薬にスイッチされたという条件が付くので、内容成分も含め、商品名が厚労省のホームページで公開され、随時更新されていきます。まずは、ご家庭で使っている医薬品がここで発表されたリストに含まれているか確認するとよいでしょう。

日本医薬品一般連合会が、特例の対象医薬品のパッケージにロゴマークを付けて周知する動きもあるほか(右上参照)、商品名、金額、その商品がセルフメディケーション税制対象商品である旨、販売店名、購入日、などの明記が必要である旨のFAQが厚生労働省から発表されているので、徐々に「購入した医薬品が新しい医療費控除の対象であるかどうか」の判断材料が多くなりつつあります。

この制度は厚生労働省と財務省が中心になっており、「軽い症状なら病院に行かず、市販薬で治す」「市販薬で健康の増進や病気の予防をする」といったことで、国の医療費が圧縮されて財政改善につながるのでは……という考え方も一方にはあります。

ただし、この特例と従来の医療費控除は同時に受けられず、選択適用となりますが、医療費控除は適用が受けられなくても、この新制度であれば適用される人がいるかもしれません。

本来、医療費控除は「健康な人より病気がちな人のほうが生活が大変」とみなし、税金の負担を軽減しようという仕組みです。時代の変化にともない、より弾力的に運用されるべきでしょう。

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