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ウイスキー&バー/この店の、この一杯

第47回神戸・バー『YANAGASE』(2ページ目)

『YANAGASE』は神戸の町にふさわしい、瀟酒な一軒家だ。オーナー・バーテンダーは中泉勉氏。70歳を超えたベテランだ。私は彼のことを“ファーザー”と密かに敬称をつけて呼んでいる。味わい深い素敵な男だ。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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中泉氏は静かに丁寧に一杯の水割りをつくり上げる。
カクテルとは酒、プラス、サムシング。ウイスキーと水をミックスしたカクテルをつくっているのだ、という実感が湧く。それを口にすると、ウイスキーっていいよな、旨いなと再び実感し、とても愛しい一杯になる。

こんな体感をさせてくれるバーテンダーはそんなにはいない。中泉氏がつくるからいいのだろう。
若い人たちは背伸びしてでも『YANAGASE』へ行きなさいとすすめたい。お行儀よく、ゆっくりと飲んでみるといい。大人になった気がするよ。40代半ばを過ぎた私でさえ、大人になった気がするんだから。ほんと。


ずっとファーザーでいて欲しい

阪神・淡路大震災では山手側の地盤の硬い地域に店があったため、倒壊だけは免れた。それでも修復は大変だったが、『YANAGASE』の姿は昔と変わらぬままである。


太平洋戦争の爆撃の地獄絵を見たという中泉氏も、あの10年前の震災には驚愕した。
修復して再開した夜、客たちは笑顔で店にやって来たという。
「まだ町は復旧していませんでしたから、再開のためらいがありました。でも店を開けたら、皆さん、ありがとう、っておっしゃるんです。驚きました」

荒れ果てた状況の中、皆、ひと息入れられる場所を渇望していたことを知った。バーテンダーとして、白いバーコートを着て、蝶タイを締めてカウンターに立つことの意義をその夜あらためて知った。
店にきてくれるひとり、ひとりの心身を癒す。それがバーテンダーだ。そして未来への夢を紡ぐ時間を提供しなくてはならない。


そんな話しをしてくれる中泉氏の目は優しく穏やかだ。私は顔を見つめながら「ずっとファーザーでいてください」と心の中で願う。
中泉氏には90歳になっても100歳になってもファーザーとしていて欲しい。カウンターに立てなくてもいい。客の隣に座っていてもいいから、ファーザーの温かさで店と客を見守っていて欲しいと願うのだ。

左肩のINDEX『おすすめのバー・西日本』も参照いただきたい。


YANAGASE
兵庫県神戸市中央区山本通1-1-2
tel.078-291-0715
17:30~0:00 無休(年末年始休有り)
チャージ¥700、ウイスキー¥800~、カクテル¥1,000~



※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。
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