高フェノール値のしなやかさ、滑らかさ
ピートを燃やして、燻された麦芽は“ピーティー”あるいは“スモーキー”といった独特の香りがする。煙のような、病院のような、薬品のような、海藻のような、とさまざまにたとえられる。このピート香は、燻煙中に麦芽に付着する、主にフェノール類といわれる化合物である。フェノール値、ppm(100万分の1)という単位で表されているが、これは麦芽の量に対してどの程度の量のピートを焚くか、また燻す時間の長短によってもフェノール値は異なってくる。
また高フェノール値の麦芽で仕込んだからといって、必ずしも強いピーティーさ、スモーキーさを感じるモルトウイスキーが生まれる訳ではない。麦汁の採取の仕方(糖化・濾過)、発酵、蒸溜、オーク樽での貯蔵熟成という工程があるなかでさまざまな香味成分が生まれ、それらが影響し合う。そのためフェノール値は高くても、柔らかいスモーキーさを感じさせるモルトウイスキーになったりする。
ちなみにアイリッシュモルトの「カネマラ」は約14ppm、スコッチモルトの「アードモア」が12~14ppm、「ボウモア」20~25ppm、「ラフロイグ」40~45ppmというフェノール値である。これらに関しては『スモーキーモルトを楽しもう/スモーキー4の世界』の記事を参照していただきたい。そしてできるならば飲み比べていただきたい。
さて、「山崎蒸溜所アイラピーテッドモルト」に使用された麦芽のフェノール値である。どうやら、とても高い値のようだ。スコッチのピーテッドモルトにおいてもかなり高いものであるらしい。
熟成樽はおそらくホッグスヘッド(容量230~250リットル/解体したバーボン樽の側板を活用。胴径を大きくして組み直し、新しい鏡板を入れた樽)ではなかろうか。また何回か使われた古い樽で熟成させたモルト原酒をブレンドしているらしい。前回記事の『山崎蒸溜所ゴールデンプロミス』でも述べたが、香味に樽材の強い影響が出ないように配慮しているのではなかろうか。
2010年蒸溜の11年熟成。アルコール度数は54%。樽出し度数であり、貯蔵庫の下段でじっくりと熟成させたものであろう。
さて、やっと「山崎蒸溜所アイラピーテッドモルト」の味わい。たしかにピーティーである。しかしながらガツンと強烈なものではない。柔らかい甘いニュアンスもある。アイラピートを彷彿とさせる潮の香が穏やかにそよいでくる。
高いフェノール値を感じさせないしなやかさで、やはり山崎蒸溜所が生みだすものだと実感した。とはいえ、昨年秋に限定発売された「山崎ピーテッドモルト2020EDITION」(『いま、バーでおすすめシングルモルトウイスキー・後編』参照のこと)よりもはるかにピーティーであることは確かである。
味わいもとてもしなやかで滑らか。高いアルコール度数を感じさせない。また甘みがいい。酸味がほのかにある。この甘みに、わたしはアイラ島よりもスコットランド本土、ハイランドのヘザー(ヒース)の花咲く、美しい丘を想い浮かべたほどである。山崎モルトの花のように華やかなエステリーな感覚が潜んでいるから、そんな景観が浮かんだのかもしれない。余韻も長く、芳ばしさが心地いい。早い話、美味しい。とても好きな味わいである。
3滴ほど加水してみた。すると思い切りピーティーな感覚が登場してきた。これだ、これが高いフェノール値でつくりこんだシングルモルトなんだ、と実感した。加水してみるといい。
「YAMAZAKI DISTILLERY ISLAY PEATED MALT
シングルモルトウイスキー山崎蒸溜所<アイラピーテッドモルト>」
500ml・54%・¥8,000(税別希望小売価格/バー業態主体・数量限定販売)
色 黄金色
香り 力強いピーティー・潮の香り
味わい 滑らかな飲み口で、甘みがつづく
余韻 芳ばしいピーティーな余韻が長くつづく
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