スコッチとバーボン、同時代に類似した歩み

ジムビーム

ジムビーム

はじまりから横道に逸れる。スコッチのブレンデッドウイスキーが登場したのが1860年。「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の誕生は1863年。前回までの記事で1860年代以降、ブレンデッドが主役となってスコッチウイスキーはイングランドへ、そして世界の酒へと成長したことを述べた。
そしてブレンデッドウイスキーという新たな香味の創出とともに、スコットランドの鉄道網の拡充による流通の発達という点も見逃せないとも述べた。
世界のウイスキー史を見つめると、面白いことに気づかされる。同時代のアメリカを眺めてみよう。

アメリカでは1861年、南北戦争(−1865)がはじまる。この戦いは世界の戦史上初の鉄道輸送が関わったものといえる。“The First Railroad War”とも呼ばれているほどだ。
当時のアメリカは北部と南部の鉄道網の差は歴然としていて、北部は工業が発達しており鉄道整備を急ぎ、インフラも進んでいた。農業主体の南部はプランテーションと積出港を結ぶ交通網さえ整備すれば事足りる環境にあった。加えて気候もある。南部は北部ほどに冬の凍結や雪の被害を考慮する必要もなく、鉄道網整備が遅れていたのだった。
第16代大統領に就任していたリンカーンは生まれ故郷のケンタッキーに北軍の兵站地を置き、南部戦線への重要補給拠点とする。鉄道で運ばれる弾薬をはじめとした軍事物資、兵糧のなかにはアパラチア山脈の東、東部で主流だったライウイスキーとともに地元のバーボンウイスキーもあった。ウイスキーが前線の兵士たちを癒したのである。結果、圧倒的な輸送力もあり、北軍が勝利した。
つまり、バーボンウイスキー躍進のきっかけはケンタッキー、ノブクリークの農場で幼少期を過ごしたリンカーンの戦略と鉄道にあった。以降、バーボンはアメリカの鉄道網の拡充とともにケンタッキーからアメリカ全土に流通するようになった。
象徴的なブランドがある。1920年の禁酒法施行前まで一世を風靡した「オールドタブ」。これは現在販売数量No.1バーボン「ジムビーム」で知られるビーム家が生んだビッグブランドであった。ビーム家2代目が連続式蒸溜機をいち早く導入し、1853年に発売した。そして3代目は清らかで豊かな水源のある地、加えて鉄道駅と電信局に近い地を選び、蒸溜所を新設した。流通と情報網を確保すると味わいはたちまちにして知れわたり、「オールドタブ」はナショナルブランドへと成長していったのだった。

アードモアも山崎も、清らかな水と鉄道駅

アードモアレガシーのラベルデザイン

アードモアレガシーのラベルデザイン

スコッチのブレンデッドウイスキーとアメリカのバーボンウイスキー。1860年代という同時代から、ふたつとも鉄道によって伸張していったのである。
極論ではあるが、スコットランドのハイランドのモルトウイスキーについていえば、ローランドのグレーンウイスキーと結ばれ、ブレンデッドウイスキーとなることで存在価値を高めた。さらには流通網が生まれたからこそ多くのモルトウイスキー蒸溜所が生き延びられた、そういった一面もある。
前回記事4で「ティーチャーズ ハイランドクリーム」のキーモルトを生むアードモア蒸溜所は、1898年にウィリアム・ティーチャーの息子アダムが建設したと述べた。そこはノッカンディの丘の枯れることのない清らかな湧き水があり、豊かな自然があり、そしてケネスモントの鉄道駅がある。その立地は鉄道線路が描かれたシングルモルト「アードモア レガシー」のボトルラベルが物語っている。
鉄道によって近郊にある穀倉地帯から大麦の調達が用意であり、さらには原酒の輸送と、まったくもって好立地である(アードモア蒸溜所に関しては『アードモアレガシー/スモーキーハイランドモルト登場』記事参照のこと)。
この立地に関しては我々日本人もよく理解できるはずだ。1923年創業の山崎蒸溜所がすべてを語ってくれている。天王山に抱かれた枯れることのない名水の地であり、ウイスキーづくりに最適の湿潤な環境にあることはよく知られている。しかしながらJR山崎駅が間近にあることを忘れてはならない。
モータリゼーションなんて夢のような話の時代である。その昔、国鉄山崎駅から山崎蒸溜所まで、大麦を搬入する牛車が列を成したという。
では次回こそ19世紀後半のスコッチウイスキーの販売促進活動について記事にする。少々お待ちいただきたい。(シリーズ6につづく)

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