マスターディスティラーの素顔
グレッグ・デイビス氏
ところが話をすると、とても柔和で優しい男である。タフでありながら人を柔らかく包み込むような温かい香味のバーボンと重なる。
常にウイスキーづくりと蒸溜所のことがアタマから離れない。そしてもうひとつ、家族。妻との電話では何度も「I love you」を繰り返し、10歳と12歳の息子の様子を気にかけている。とても微笑ましい。剛柔あわせもつ、こういう人間性がウイスキーづくりには必要なんだと思わせる。
5月13日の週、デイビス氏が来日し、大阪と東京でバーテンダー向けセミナーをおこなった。さらには白州蒸溜所も訪ねるというハードスケジュールにも関わらず、東京でわたしと会う時間をつくっていただいた。この記事では、そのときの話を少し紹介しようと思う。
できれば前もって「メーカーズマーク/プレミアムバーボンの証」を読んでおいていただくと有り難い。
ディテールの追求と積み重ね
メーカーズマーク
寿司屋をはじめどこへ行っても日本人は優しく、仕事が丁寧であると彼は驚く。「ファンタスティック」だと言う。そしてウイスキーの話となると、勢い熱を帯びる。
白州蒸溜所のモルトウイスキー製造現場でも、ひとつひとつの工程でディテールを追求しており、そのディテールの積み重ねから高品質な原酒が誕生していることを実感したそうだ。
メーカーズマークはディテールの追求から生まれている。たとえば特長的な原料のひとつ冬小麦。Soft Bread Winter Wheatというメジャーではない品種であり、しかも蒸溜所近郊で栽培された良質なものだけを使用している。
「最高の原料を使い、人の手で少量生産する」というポリシーを守りつづけるためには、自分たちの目が行き届き、厳選・吟味できる状況を築きあげなくてはならないのだ。
仕込みの工夫や蒸溜のアルコール度数など工程のひとつひとつに、一般的なバーボンのつくりとは異なるメーカーズマーク独自のスタイルがさまざまにある。特長のすべてを紹介できないのでもうひとつだけ、樽の内面焼き、チャーの話をしよう。バーボン樽のチャーは3段階、ライト、ミディアム、アリゲーターの焼き加減があるとわたしは認識していた。ところがデイビス氏によると、厳密にはアリゲーターにもふたつのレベルがあり4段階あるようだ。
レベル4は内面をカリカリにしっかりと、アリゲーターの背の皮を想わせるほどに強烈に焼く。メーカーズマークはレベル3にとどめている。デイビス氏がアリゲーターの腹と表現する、焼き加減に均一な四角いパターンが生まれたところでチャーを終了する。
そうでなければ、あの気品ある麗しい熟成感は生まれないという。
さて、彼は無事、ケンタッキーに帰ったようだ。
まったくもって規則正しい生活を送っている。朝4時起床。支度をし、妻にキスをして家を出、5時30分には蒸溜所で仕事をはじめる。10時からのテイスティングまでに多くの諸事を片付けてしまう。そして午後4時には退社する。夕方は子供たちとの時間だ。家族団らんの時間過ごし、カントリーミュージックを聴き、夜10時には眠りにつくという。
メーカーズマーク。世界が認める最高級バーボンウイスキー。これを支える重要なポジションにグレッグ・デイビス氏がいる。逞しく、優しいケンタッキーの男。信頼のおける、ナイスガイ。こういう人がつくる酒は美味いに決まっている。
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