小規模、少量生産のサミュエルズ家
メーカーズマーク
その名は、メーカーズマーク。
蒸溜所はバーズタウンの南、ロレットに位置する。サミュエルズ家がこの地で名品メーカーズマークを誕生させたのは1959年秋のこと。ただしこの一家の歴史はバーボンウイスキーの歩みそのものといえる。
スコットランド出身のロバート・サミュエルズがケンタッキーに入植したのは1780年と比較的早い時期であった。農夫であった彼はルイビルの南、バーズタウン郊外で自分や近隣の友人たちのためにウイスキーづくりをはじめる。
本格的な蒸溜所を建設してウイスキービジネスを開始したのは1840年、ロバートの孫、3代目テイラー・ウィリアム・サミュエルズだった。それからはウイスキー生産一筋に一家は生きることになるのだが、20世紀になり、禁酒法施行によって蒸溜業から手を引くことになる。ここまではアメリカの酒類メーカーの典型的な歩みでしかない。
復活させ、名品を生み出したのは6代目ビル・サミュエルズ・シニアだ。彼は芳醇で口当たりの良い、世界で認められる最高級のバーボンを誕生させようと決意し、試行錯誤を繰り返す。
まず蒸溜所の選定に入る。1951年、ロレットのハッピーハロー(スターヒルファーム)に廃屋同然の蒸溜所を見つける。敷地内の湖からは良質なライムストーンウォーター(石灰岩の地層によって濾過された清水)が湧き、風光明媚でもあった。
さらには原料を見直す。穀類の配合を試すためにパンを焼くという非科学的な方法だったが、1952年にバーボンの原料のひとつであるライ麦よりも冬小麦で焼いたパンのほうがまろやかで口当たりがよいことに気づく。
最もこだわったのはサミュエルズ家に代々伝わる「最高の原料を使い、人の手で少量生産する」というポリシーだった。小規模、手づくりの少量生産だからこそ最上級のコーンや冬小麦をしっかりと吟味でき、品質が安定する。こうした最適な条件が整った上で1953年から蒸溜を開始し、熟成に6年あまりを費やして生まれたのがプレミアムバーボン、メーカーズマークである。1959年秋のことだった。
プレミアムが薫る、製造者の印
印象的なトレードマーク
赤い封蝋を纏ったボトルにはプレミアムが薫る。ビルの妻マージーのアイデアであり、1本1本手作業でおこなわれ非効率だが、もちろん封蝋のスタイルに同じものはなく、上質で特別であることを強く印象づける。メーカーズマーク、『製造者の印』といネーミングにふさわしい。
そのトレードマークにあるSは一家の頭文字。IVはテーラーから数えて4代目にあたること。星はスターヒルファームを謳う。それらを囲む円は一家の長い歴史。途切れている部分は禁酒法による中断の時期を示している。
さて、最後に製品特性を含めた詳細をお伝えしておく。
「メーカーズマーク」750ml/45%/¥2,800
コーン70%、冬小麦16%、大麦麦芽14%の配合比でつくられ、原料にライ麦は使わない。ふくよかで絹のようななめらかさ、やわらかな風味を特長としている。
まず香り。オレンジのような柑橘系にハチミツやバニラも連想させる。ふっくらとした小麦の印象もある。味わいはまろやかで、バニラ様を中心に繊細で複雑。余韻はソフトで爽やかな感覚に誘う。
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