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靴の「底」について深く考えてみる ヒールその4(2ページ目)

目下「メンズシューズ基礎徹底講座」では、ただ今ヒールの意匠についてあれこれと考察しております。今回はトップリフトに付く「釘」について考えてみましょう。「どう打つか?」のみならず、これを付ける・付けないの根本的な違いも含め、ここは各メーカーやブランドの特徴が意外と出るところです。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

かつてのアメリカ靴は、頑強だった!

かつてのアメリカ靴の釘の打ち方

かつてのアメリカ靴に多く見られた、太めの釘がズラッと並ぶ意匠です。いかにも削られ難く、頑丈そう…… 外くるぶし側の後端にはショートケーキのような形状の金属片が埋め込まれるのがお約束です

トップリフトに釘を何故打つのか? この素朴な疑問の回答には諸説あるのですが、単にトップリフトをヒール全体に固定させるだけでなく、それを補強し長持ちさせることも大事な役割だと思います。それを実感できるのが、かつてのアメリカの紳士靴に多く採用されていたご覧のような意匠です。大きめの釘でその外周をグルッと囲むその姿は、まるで難攻不落の城壁を築いているかのようです。

特に圧巻なのは、外くるぶし側の後端に設けられたショートケーキ状の金属片でしょう。ここは言わずと知れた、トップリフトに限らずヒール全体で損傷が最も早くかつ激しく進行するエリア。全体であれ一部であれ、そこにゴムを用いるのが一般的ではなかった時代の究極の防御策がこれで、その形状は厳つくもどことなくユーモラスに感じられますね。

最近は敢えて用いない例も!

ジョン・ロブ(パリ)の釘なし仕様

ジョン・ロブ(パリ)の靴で2004年頃から採用されているトップリフトには、スリップ防止を意識したのでしょう、実は釘が打たれていません。代わりにロゴマークを上手く文字ったゴムを後端に採用し、安全性を重視させています

ただ、トップリフトに釘を大量に用いると、実用面において一つ大きな問題が発生します。ズバリ、滑りやすくなるのです。雨天時に履いていた訳でもないのに、レザーソールを用いた靴で歩行中に、例えば大理石でできた路面や階段で思わぬタイミングでツルッと大スリップした経験、大抵の方ならおありでしょう。これ、アウトソールが原因と言うよりも、この釘が地面と摩擦するやらなんやらで起きてしまうことが多いのです。

だからでしょうか、近年ではレザーのトップリフトの釘を少なめにする、若しくは全く用いないケースが、高額な靴でも多々見られるようになって来ました。代表例が上の写真のようなジョン・ロブ(パリ)のもので、2004年辺りから従来の一般的なゴム付きトップリフトから、このブランドのロゴを美しく図案化した釘無しのものに変更されています。国産のものではリーガルの既製品も、上級グレードのもので以前に比べて大分使わなくなりましたね。製造物責任法(PL法)の浸透などで、「従来の伝統よりも安全性を重視する姿勢」を靴メーカーとしても取らざるを得なくなっていますし、圧着(接着)による固定技術も著しく向上しているので、もう釘に頼る必要が無くなりつつあるのも事実な訳で、単なるコストダウンではないのです。


【関連サイト・メンズシューズ基礎徹底講座・靴の「底」について深く考えてみる】
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
その8
その9
ヒール その1
ヒール その2
ヒール その3

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