これはメンズのドレスシューズです!

オペラパンプスのリボン飾り
オペラパンプスを代表するディテールである、甲のリボン飾りです。レディスシューズのようなディテールですが、れっきとしたメンズの靴なのです!


前回は足への密着度に優れ日本の生活様式に適応力の非常に高い、エラスティックシューズについて解説いたしました。特にセンターエラスティックシューズは、好き嫌いに関わらず日本では日常的に着用される方が多い種の靴なのは明らかですので、日本のメーカー・ブランドそれにショップの企画部隊が先導して、さらに洗練され世界に誇れるようなデザインのものを作り出していって欲しい靴でもあります。

今回はそれらとは全く対照的に、普通の日本人男性にはまず縁のない「オペラパンプス」ついて詳しく見てゆきたいと思います。リボン飾りやパテントレザーのインパクトが大きいせいか、女性の靴に勘違いされてしまうことも多いこの靴は、もはや大抵の方にとってご自身の結婚披露宴の時しか身に付ける経験がないものでしょう。だからと言ってこの靴のことを全く知らないで、そのように本当に大切な場面で大恥をかいてしまうのも悔しいですよね! この場でしっかり予習・復習して下さい。なお、この靴と雰囲気がちょっと似ていて、これも日本の生活環境ではほとんど縁のない「アルバートスリッパ」についても、今回は合わせて解説いたします。


非日常を演出すべく、合目的的に選ばれた靴

リーガルのオペラパンプス
REGAL SHOESのお店でのみ売られている隠れた名品、それがこのREGALのオペラパンプスです。海外のメーカーの既製品は、今ほぼすべてセメント製法で作られていますが、これは未だにマッケイ製法で丁寧に作られています。


パンプス(Pump・英語では単数形で表記されます)とは、トップラインが浅めで履き口が大変広いスリッポンの総称。今でこそ「ヒールの高さが様々ある女性の靴」のイメージが完全に定着してしまいましたが、このスタイルが誕生した16世紀のヨーロッパでは、ソールも薄くヒールの低いこれを男性も女性も普段用に履いていたようです。当時は今日のローファーみたいな感覚で身に付けていたのでしょうか?

甲にリボン飾りが付き、それと同素材のテープがトップラインを包むのが特徴のオペラパンプス(Opera Pump)。これが、その名の通りオペラ観劇や音楽会・舞踏会・晩餐会用(このような「宴」は大抵の場合、夜に行われます)の礼装靴としてヨーロッパで登場したのは、19世紀のちょうど中頃だと言われています。これは黒の燕尾服が日常着からそのような場での「礼装」に昇格した時期と実はほぼ同じ。また、靴クリームを付けなくても輝きが維持されるパテントレザー(エナメル)が、発明から暫くして「ご婦人のイブニングドレスの長い裾を汚さないで済む!」と、当初の目的とは逆に上述のような場で履かれる靴の素材に選ばれるようになった頃とも大体一致します。

極論すれば、燕尾服を「礼装」の地位に安定させるため、「この装いは日常着とは異なる!」というメッセージを土台、すなわち足元から発する記号的役割を果たすべく、極めて合目的的に選ばれたのが、この黒のパテントレザー製のオペラパンプスだったわけです。以来今日までこの靴は、燕尾服やディナージャケット(タキシード)などの「宴の礼装」とは、切っても切れない腐れ縁状態。悪路をガンガン歩き回るわけでもなく、せいぜいボールルームで踊りまくる程度の靴だから、微調整の紐やストラップはかえって邪魔モノだし、ソールだって薄くて全く構わない…… 栄枯盛衰著しい靴の歴史の中で、メンズのパンプスとして生き残った唯一の存在となったのは、ゆえにある意味当然なのです。


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