海外赴任者に求められている能力とは

海外赴任者に求められる能力

海外赴任者には特殊な能力が鍛えられる

企業のグローバル化やインターネットなどの通信網の発展に伴い、いまや世界との仕事はシームレスなものとなりつつあります。数年ほど前までは、海外赴任というと、覚悟が必要とされる特別なことでした。現在では、アジア圏は日単位で行ったりきたりする「コミューター(通勤)」の範囲に入ろうとしています。

とはいえ、海外で仕事をするということは、言葉をはじめ、習慣、文化の違いと直面することであり、特に、海外で現地の人を部下に持つ管理職にとって困難との戦いでもあります。また、海外赴任時における役職が日本における役職よりも上位につくケースが多く、文化の違いへの適応に加えて、役職への適応も求められます。

そんな海外駐在経験をしているマネージャーは多くの場合、特定の能力を育んでいます。それは、「相手のことを理解し、相手の能力を伸ばすコーチ型アプローチ」に非常に共通するところがあります。今回は、海外駐在員が持っているある能力と題し、彼らから学べることについてご紹介いたします。
     

海外での仕事を成功させる経験よりも重要なスキルは?

調査「Up or out. Next moves for the modern expatriate (Economist Intelligence Unit) 出世か退職か。現代の海外赴任者の次のステップ」では、海外赴任経験者に対して次のような質問をし、回答を得ています。

■海外赴任者の成功を左右する要素は何ですか?
  • 文化に対する感受性 73%
  • 過去の海外経験  38%
  • ケースごとにリードする力 38%
  • 語学力 32%
  • ネットワーキング力 27%
  • 困難な状況、マーケットスピードが速い現場での過去の経験 22%
  • 商品/サービスの専門的知識 16%
これによると、語学力や経験よりは、感受性が求められることがわかります。これは非常に興味深い数字です。

アメリカから赴任してきているあるエクゼクティブは、日本文化への造詣を深めようととても熱心です。オフィスに和のテイストを取り入れたり、日本人作家の本を読んで感想を述べたり、日本のことわざなどを自分のスピーチに取り入れたりしています。これは、日本人スタッフとの共通項を持つことが目的であり、コーチ型のリーダーシップを持つ際に最も基盤となる「信頼関係を築く」ということと深く関係します。今話題のサッカーのザッケロー二監督も日本のチームを導く、という意味では、信頼関係を築きながらパフォーマンスを上げる海外駐在員と全く同じ立場だと思います。

逆に、いわゆる「個室」を持っているアメリカのエクゼクティブは、西洋型の上下関係のヒエラルキーにとても敏感。部下であっても、直属でない限り、声もかけてはいけないと思い込んでいました。しかし、日本では日常的な声かけや飲みに行くなどの関わりが仕事をうまくいかせるために重要だと知ると、オフィスに出て声をかけたり、お互い話がしやすいような環境づくりに取り組みました。結果として部下からの評価指数がぐんと上がりました。

いくら、マネジメント能力が高くても、お互いを理解したり、受け入れたりするという前提がなければ、仕事を円滑に動かすことはできません。周りへの感受性がどれくらいあるかというのが、とても大事な要素であるのがよく伝わってくるエピソードです。これは、駐在員に限らず、どの職場でもあてはまることではないでしょうか。
 

うまくいっている方法を真似する

今度は日本から海外に駐在している人に見られる特徴を紹介します。海外在住の日本人マネジャーが、部下で英語をどうコーチングするか、どのようにコーチ型のマネジメントをするか、ということに向けたトレーニングがあります。そこで実感するのは、彼らの「真似る能力の高さ」。

たとえば、講師が、「Hello what can I do for you?」と言って会話を進めることを伝えると、次の時には、このフレーズをそのとおりに復唱し、話を始めます。面白いことに、日本語で同じような状況があっても、少し言葉を言い換えたりして、まったく同じように真似をするということはほとんど見られません。

これも、「外国語」という環境の中で、コミュニケーションをはかる手段をいかに早く身につけるかというにも関わっていると思います。その結果、日本語で学ぶよりもはるかに早いスピードで新しいスキルを身につけることができるようです。第二外国語のほうが、身につくのが早いというのも、皮肉なものです。

新しいことを身につけるというのは、「学習する」ということ。うまくいっている人の真似てちょっと取り組んでみてください。
  • 言葉づかい
  • 話す調子
  • よく使っている言葉のフレーズ
など、そのまま使ってみると、早くその行動が身につく可能性が高まります。
 

 課題も文化の理解

お互いを理解することはどこでも同じ

お互いを理解することはどこでも同じ

ここまでは、うまくいっていることに焦点を当てましたが、逆にうまくいっていないことや課題に焦点を当てると、そこからも見えてくることがあります。前述の調査で、海外赴任のマネジャーにとって課題となっていることは何かをいう問いかけに対し、以下の結果がでています。

■海外赴任マネジャーにとって、もっとも大きな課題は何ですか?
 
  • 現地スタッフとの文化、国柄による対立 59%
  • 赴任者が現地の文化を理解できないこと 47%
  • 仕事のスタイルやオフィスルールの違い 42%
  • 現地の言葉が話せないこと 33%
  • 現地スタッフと赴任スタッフの給与の違いへの抵抗 28%
  • 上位赴任者に対する抵抗 25%
お互いの理解の不足が引き起こすギャップが課題となっています。これも、海外赴任者に起こっていることだけではなく、国内でも自分と部下との認識のギャップが部下育成を難しくしているケースがたくさん見られます。

ギャップがある時に有効なのは、「相手と自分は違う」という認識に立つこと。イライラしたり思うようにいかないと感じるのは、「私だったらこうするのになぜやらないんだ」「どうして、そういう取り組みをするんだ」と相手を責めているから。こうなってしまうのは、相手と自分が同じに違いない、という前提に立つからです。

「この人はどんな考え方を持っているんだろうか」
「何を見ているんだろうか」
「何に興味を持っているんだろうか」

私は何も知らない、というスタンスに立つと、相手に対する興味関心がわきやすくなり、問いかけ起こりやすくなります。
 

あなたの駐在員チェック! 海外赴任に必要な能力はある?

ここまでは、海外駐在員という側面でご紹介しました。次のチェックリストは、母国においての自分の取り組みにも充分に適応することができます。

なんとなくやっていると思われていることを、どれくらい意識取り組んでいるかというのが、このチェックリストの要です。海外駐在している人も、母国にいる人も、以下のチェックリストに取り組んでみてください。

■ビジネス環境適応
□ 現在の職場で自分は持てる能力を十分発揮していると感じている。
□ 必要な資源・サポートを得られる環境や手段を確保している。
□ 現地の取引先とビジネスを行うための適切な関係を築いている。

■ビジョン・ミッション
□ 自分の駐在中のビジョン・ミッションは明確な言葉になっている。
□ 自分の駐在中のビジョン・ミッションは現地社員の末端まで伝わっており、皆その実現のために動いている。
□ 本社からの指示でビジョン・ミッションに変化があった場合は自分の言葉で迅速にその内容を伝えている。

■成果
□ 本社から期待されている成果を挙げている。
□ 現地法人・社員から期待されている成果を挙げている。
□ 社員に業務目標を明確に伝え、社員も理解している。

■本社との関係
□ 本社からの指示の背景や内容は常に十分に理解できている。
□ 現地の状況は十分に本社に伝えており、理解を得ている。
□ 困った時にサポートしてくれる人が本社にいる。

■体調・ストレス
□ 体調に不安はない。
□ 夜は良く眠れており、朝もすっきり起きられる。
□ 感情が高ぶったり落ち込んだりすることはない。

■関係構築
□ 現地社員と仕事以外の雑談が出来る。
□ 仕事以外で現地社員と一緒にする活動がある。
□ 自分は地位相応のリスペクトを得ている。

■家族(同道している場合)
□ 家族は生活を楽しんでいる。
□ 配偶者、子供に仲のいい友人がいる。
□ 日本に心配なこと(家族の病気など)がない。

海外に駐在している人も、日本にいる人も、今一度自分の環境をチェックし、部下とより深い信頼関係を築けるよう、振り返って取り組んでみましょう。

〔参考資料〕
「Up or out. Next moves for the modern expatriate (Economist Intelligence Unit) 出世か退職か。現代の海外赴任者の次のステップ」

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