■ 恐ろしい実験
心理学者のミルグラム博士が行なった実験を見てみよう。私たちが、いかに権威に弱いかが、恐ろしいくらいによく分かるはずだ。
実験の被験者は、地元の新聞広告で集められたごく一般的な人々である。被験者は二人ずつ呼び出され、博士から「この実験は記憶と罰の関係を調べるためのものです」と説明される。その後、被験者はくじ引きで「生徒役」と「教師役」を決め、実験室に入る。
実験の手順は簡単なものだ。生徒役は別室で電気イスに座り、教師役は簡単なクイズを生徒役に与える。生徒役がクイズに間違えると、教師役は罰として生徒役に電気ショックを与えるのである。
電気ショックは、15ボルトから450ボルト(死に至る危険あり!)までの30段階があり、生徒役が間違えるたびに1段階(15ボルト)ずつ強い電気ショックを与えるよう指示される。
実験が始まると、教師役は生徒役が答えを間違えるたびに、電気ショックのレベルを1段階ずつ上げていく。ショックを与えられた生徒役は、120ボルトになると苦痛を訴え、150ボルトでは苦痛のあまりに絶叫する。
生徒役の悲痛の声に、教師役は博士に「もう止めた方がいいのでは?」と提案するが、博士は続けるように指示する。教師役はためらいながらも電気ショックを与え続ける。
電圧が300ボルトになると、生徒役は壁を叩いたり、すさまじい悲鳴をあげる。そして330ボルトになると、もはや壁を叩かなくなり、ついに無反応になってしまう。
実験は教師役が命令に従わず、電気ショックを与えるのを拒絶した時点で打ち切られた。しかし、驚いたことに、教師役の被験者40人のうち約3分の2は、生徒役の懇願を聞き入れず、死の危険すらある最後(450ボルト)まで実験を続けたのである。悪夢のようなこの結果を、あなたは信じられるだろうか?
「なんてひどい実験をするんだ!」と思ったかもしれない。しかし、実は生徒役はサクラ(博士の助手)であり、スイッチを入れても電気ショックは流れないようになっていた。苦しむ姿は演技だったのだ。この実験の本当の目的は、電気ショックのスイッチを入れる教師役を観察することだったのである。
この実験は、私たちが権威(この実験ではミルグラム博士)に対して盲目的に服従してしまう傾向があることを示している。権威に対する服従は、短絡的な意思決定として、思考が伴わない形で生じてしまうのである。念を押すが、残虐な行動をとった教師役の被験者は、私たちと同じようなごく普通の人間である。それほどまでに「権威」の力は強大なのである。
→ 次は、もうひとつの実験と、身近に使われる権威の力について
■ 【連載】説得と交渉の営業心理学 |
第1回 二度目は断れない |
第2回 拒否させて譲歩する |
第3回 一面呈示と両面呈示 |
第4回 結論を言わない暗示的説得 |
第5回 手に入りにくいほど欲しくなる |
第6回 他人の真似をする社会的証明 |
第7回 人を服従させる権威の力 |
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