靴やブーツの脱ぎ方にも作法があります
私たち日本人にとって人前で靴を脱ぐのは日常茶飯事ですが、靴の脱ぎ方ひとつにも合理的で美しい作法があります。どんなに美しいしぐさでも、気配りがなければ周囲が不快になってしまうことさえあります。そこで、やり方だけにとどまらず “なぜそうするのか”という道理を理解しておきましょう。状況に応じて臨機応変に振舞えるようになります。
靴の脱ぎ方
わかりやすいよう靴の向きを船にたとえて、つま先が上がり口向きなら「入船」、戸口向きなら「出船」としてご説明します。最終的に脱いだ靴がきちんと出船に揃えられていることが前提ですが、これは見た目の美しさと履きやすさを考えてのこと。いざというときに出陣しやすい武士道の名残でもあります。ではどうやって脱げばいいのでしょう?実は幾つかの方法があります。
【後ろを向いて出船に脱ぐ】NG×
後ろを向いて出船に脱げば、揃えなおす手間もかからず合理的!……しかし、これでは家人にお尻(背中)を向けることになり失礼です。
前を向いたまま入船に脱ぎ、出船に揃えるのが正しい作法。揃える時も相手にお尻を向けないよう気をつけて、家人と反対側に少し斜めに屈むのがポイントです。女性の方は膝をつくと美しいしぐさになります。
先に男性が入船で上がり、次に女性がふたり分の靴を出船に揃えると、大人のたしなみを感じさせます(もちろん、状況によりますので臨機応変に)。
お店の小上がりなど上がり框(かまち)の高いところなら、後ろを向いて出船に脱いでも構いません。揃えるために小上がりの上で屈むとお尻を突き出す格好になり、そのほうが下品になるからです。
下足番のいるお店では、入船に脱いだあとはお任せして構いませんが、「ありがとうございます」「宜しくお願いいたします」など一言添えてくださいね。
脱いだ靴の置き方
真ん中は特等席。訪問先で自分の靴を真ん中に置いては、慎みが感じられませんね。家人はお客様を丁重に扱ってくださいますが、客の立場では家人を敬う態度を忘れずに。脱いだ靴は、家人から遠いほう(下座側、またはシューズボックス側)の端に寄せて置きましょう。靴の履き方
ブーツの脱ぎ方と置き方
ファスナーつきのロングブーツ、脱ぎにくいですよね。脱ぎ方が下手だと不恰好ですし、もたもたしていると周囲を待たせるばかり……履いて来るんじゃなかったと後悔しないためにも、上手く脱ぐコツを覚えておきましょう。ブーツのファスナーの下ろし方
一般的にファスナーは内側についています。少し前屈みになり(髪が顔にかかってしまう方は耳にかけてくださいね)、右足の場合はかかとを上げて右手を添え、左手でファスナーを下ろします。左足の場合はその逆です。
前屈みのまま脱ぐとガニ股になってしまうのでNG。脱ぐ方の足を後ろに曲げ、同じほうの手(右足なら右手)でかかとを持ち、足は動かさずブーツだけを引くようにして脱ぎます。このとき、後方に振り返りながら脱ぐと美しく見えます。
出船に揃え、邪魔にならないようなるべく下座側に置きます。そのままだと広がってしまい見苦しい場合は、ファスナーを少し閉め、左右を重ねてふたつ折りにして置きましょう。
脱ぎ始める前に、後ろに人がいないことを確認しましょう。周囲の邪魔になっていると思うと、焦ってうまくいきません。慌てて雑にするよりも、きちんと丁寧に。周囲の方を待たせてしまった場合には、一言お詫びの言葉をかけましょう。また、手がつけるような場所なら片足立ちでバランスを崩しても安心です。椅子があれば座って脱ぎましょう。
ブーツの履き方
気遣いあふれる靴の脱ぎ履き
こうしてみると、靴の脱ぎ履きひとつにも、周囲に対する気遣いがあふれているのがわかります。また、一連の動きがスムーズにできると実にスマート。本当の美しさは、小手先のしぐさではなくこころを伴う振舞いに宿るでしょう。【関連記事】