いまの時代、いろいろな面でコンピュータ管理されているとはいえ、結局のところは人の五感や経験値が頼りであることを知らされる。仕込み槽に温水と麦芽が投入されるときは必ずチェックする。つくられた麦汁を口に含み、必ず官能する。発酵時も蒸溜時も必ずその状況をチェックし、ニューポットの香味ももちろん慎重に官能する。
熟練の職人の技量がいかに重要か、松田氏の背中を見つめながら実感した。
非効率、スローなゆえの奥深さ
ウイスキーづくりの現場に立ち会うといつも認識させられることがある。それは時間だ。こんな非効率な製品がいまどれだけあるだろうか。スピードが求められるいまの時代にあって、なんとスローなつくりをしていることか。
何時間、何日というサイクルの工程でニューポットは生まれ、それが十年以上も樽に詰められたままなのだ。恐ろしいほど気の遠くなる仕事がウイスキーづくりなのだ。
松田氏はいま40代だが、彼が50代になって生んだニューポットがどんなドレスを身にまとうのかはわからない。それを見つめ、テイスティングするのは後輩たちなのだ。
恐ろしくスロー。だからこそ深く熟成し、人々を魅了するのだと思う。
さて、松田氏の詳細はサントリー山崎蒸溜所のホームページで私が連載している『職人の肖像』で知っていただきたい。『職人の肖像』シリーズは、私が山崎蒸溜所でウイスキーづくりの勉強をさせていただいた時にお会いした方々を紹介している。
今回の松田氏で第3回目となる。それぞれの現場で真摯にウイスキーと向き合っている人たちがいる。その人たちのハートを知り、ウイスキーっていいもんだな、と感じていただければありがたい。
前回のウイスキーづくりの職人第2回『千利休の愛した水とウイスキー』もご一読ください。
『職人の肖像』第3回も是非どうぞ。