モルト原酒はどうして生まれるか。ご存知の方も多いだろうが、ちょっとだけ説明しておく。
ウイスキー蒸溜所ではまず大麦麦芽(モルト)を仕込むことからはじまる。良質の水、その温水で砕いた麦芽を溶かす。すると麦芽中のデンプンが糖分に変わり、甘い麦のジュース、麦汁(ばくじゅう)が得られる。そして麦汁を濾過して酵母を加えると発酵がはじまる。

発酵液はビールに近いものと考えてよい。その発酵液をポットスチル(単式蒸溜器)にかけて、通常2回蒸溜する。そこで得られるニューポットと呼ばれる無色透明の強い酒をオークの木でつくられた樽に詰め、長い年月をかけて熟成させて生まれる。

ニューポットは無色透明といったが、アルコール度数は60~70%もあり、それでいて特長的な香りを持っている。リンゴや梨のフルーティな香り、同じフルーティでも柑橘系の爽やかな香り、もちろん大麦由来の穀物の香り、その他にも花やフェノール様、皮やゴム、海藻のような香りもある。

ここでは細かなつくり込みのことまでは説明しないが、仕込みからニューポットが生まれるまでにさまざまな方法をとることによって、こうした多様な香りが育まれる。ニューポットの香りを、とてもセクシーだと思うのは私だけだろうか。

モルト原酒づくりを簡単に表現すると、ニューポット誕生までは原酒の骨格づくり、その後の樽熟成は原酒のドレスアップの時間といえるだろう。


骨格はテロワールが影響する

松田健二氏。サントリー山崎蒸溜所醸造グループで、長年モルト原酒の骨格づくりに携わっている人だ。
松田氏は生まれも育ちも山崎。幼稚園へは蒸溜所の構内の道を歩いて通った。高校だけは京都市内の空気を吸ったが、もちろん山崎からの通学だ。山崎一筋の人間であり、これほど山崎のモルト原酒の骨格づくりに向いている人はいない。

名水の地に銘酒が育まれるというが、ウイスキー蒸溜所も良い水のあるところに立地している。そして良いモルト原酒を生むには、ワインでいわれるところのテロワール、人を含めた立地や環境条件が大切になる。
山崎の気候風土の中で育ち、名水と高い評価のある山崎の水を飲みつづけてきた松田氏。つまり彼の骨格が山崎なのである。(次頁へつづく)