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ウイスキー&バー/この店の、この一杯

第45回 浅草『オレンジ・ルーム』の酔夢(2ページ目)

浅田次郎の『地下鉄に乗って』ではないが、メトロに乗って浅草へ行こう。バー『オレンジ・ルーム』のバーテンダー、遠藤明氏に会いに行こう。ウイスキーを嘗めながら、浅草の香にたっぷりと浸ってみようじゃないか。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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その潔い空間で、ギムレットとマンハッタンを飲む。
ギムレット(¥1,000)は30代半ば過ぎの三保剛氏につくってもらった。ジンはタンカレーだったような気がする。わずかに甘みを感じさせる冴えたキレ味があった。


マンハッタン
コアントロー・チェリーを沈めたマンハッタン。
マンハッタン(¥1,000)は遠藤氏がつくってくれた。熟練のステア。ベースはカナディアン・クラブ・ブラック・ラベルで、柔らかく滑らかな仕上がり。チェリーがよかった。一般的なマラスキーノ・チェリーを私は嫌いで、カナディアン・クラブのハイラムウォーカー社の人たちがドライ・マンハッタンのロックにパールオニオンを入れて飲むのを真似て、スタンダードのマンハッタンもパールオニオンで飲んでいる。遠藤氏が使ったのはコアントロー・チェリーだった。ちとこれが嬉しかった。

オレンジリキュールのコアントローに漬けた赤紫色のこのチェリーはマンハッタンにコクを生み、何よりもマラスキーノ・チェリーの安っぽさがなく、高級感がある。
安っぽいとは失礼だが、ヴェルモットをチンザノといったにがよもぎの強い香味のものを使ってつくられた場合、マラスキーノ・チェリーをかじることでひと息つくこともあるからあまり悪く言いたくない。でも好きではない。


ラフロイグで締めてメトロに乗る。

ラフロイグ
遠藤氏も好むラフロイグ(¥1,200)

カクテル2杯の後、ウイスキーは何にしようかと珍しく迷った。
『オレンジ・ルーム』ではラフロイグ10年、ブリックラディック(ともに¥1,200)、ハイランドパーク12年(¥800)が人気という。遠藤氏に「何が好みですか」と聞くと、「私はラフロイグばかり」との答え。では、とラフロイグをストレートで飲んだ。
いい心地になり、もう一杯と思ったが止めておいた。私はこの準備体操の後に猛ダッシュすることがままある。さらっとした酔いで美しく帰る決断をした。

地下鉄に乗る。遠藤氏の言葉がよみがえる。
「時代は変わりつつある。浅草が好きになったとマンションを買う独身女性が増えたことでもそれでわかる。でもね、やっぱりまだのんびりしています。浅草のバーはね、のん気だよ」
地下鉄の社内は暖かくて、眠くなった。浅田次郎の『地下鉄に乗って』みたいに過去にタイムスリップしないかな、と期待する。
夢をみた。大みそか、『オレンジ・ルーム』で除夜の鐘を聞きながらラフロイグを飲んでいた。遠藤氏に「浅草寺に初詣に行きませんか」と声をかけられたところで目が覚めた。乗り換え駅だった。

『オレンジ・ルーム』で、はたして除夜の鐘の音は聞こえるのだろうかと考えながら腰を上げた。今度、遠藤氏に聞いてみなければ。

INDEX『おすすめのバー・東京』もご覧いただきたい。


ORANGE-ROOM
東京都台東区浅草1-41-8 清水ビル1F
Tel.03-3842-5188 無休(元旦のみ休)
チャージ¥500、ウイスキー¥700~、カクテル¥800~

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。
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