硬質さで封じ込めたような空間だ。
カウンターは欅だが、その他は黒とグレーの金属的なモノトーン。異彩を放つのが照明で、カウンターのラインに添うように頭上には円筒の管が照明として発光している。
筒は哺乳瓶に使用されるポリカボネイト。壁両端に埋め込まれたハロゲンランプが光源で、筒の内側に貼ってある光伝送シートが感応する。
カウンター奥の壁には、和田誠のスタンリー・キューブリック監督を描いたイラストが飾ってある。
店名は『ORANGE』。ここまで説明すればわかる人はたくさんいるだろう。映画『時計じかけのオレンジ』から採った名前だ。
中山憲昭氏と奈美江夫人がオーナーだが、夫妻が好みのものをモチーフにして、わかりやすく親しみやすい呼称ということで『オレンジ』となった。
はじめに硬質といったが、彼らの接客サービスがこの空間を柔らげ、くつろぎの場とする。なかなかいい感じのバーである。
ただこの一年ほどは奈美江夫人は週一回の登場となってしまった。赤ちゃんができたからで、いまは夫人を取られてしまった中山パパがひとりで頑張っている。夫婦助け合いながらの睦まじい姿をみかけられないのがちと残念だが、新しい可愛い生命を守ることの方がずっと大切だ。
グラスを手に「パパ、ガンバレ」と、私は静かに中山氏を応援している。