ワイン/ワインバー・レストラン

温かなるフランス料理:アラジン(7ページ目)

もしもあの時、シェフがフランスに戻っていたら……我々はこの、心温まる料理を食べられなかったに違いない。広尾のフランス料理店『アラジン』で、ワインと料理を合わせる。

執筆者:橋本 伸彦

「また食べたくなる料理」を求めて

川崎誠也氏は24歳で渡仏し、ヴィヴァロワ、アルケストラート、ミシェル・ロスタン、ネグレスコなど数多くの有名店で働いた。10年近い年月をフランスに暮らした彼は、フランスの時間の流れ、フランスの空気そのものが大好きになっていったという。日本に戻るか、フランスに一生住むか。それを考えようと一時帰国。六本木『オー・シザーブル』料理長を務めてから、結婚を機に東京に留まることに決めた。

川崎シェフがフランスで集めた銀器などの骨董が店内を彩る

1993年に独立してここに店を持ち、2000年の改装で現在の位置に厨房を拡げた。川崎シェフ自身の言葉を借りれば、ここで「自分が本当に食べたいものを出す」ことと「目を惹くだけの料理より、『あの料理がまた食べたい』といつまでも心に残る料理」を提供することに専念している。フランスで働いていた頃に少しずつ買い集めた骨董品は店内に飾られて雰囲気を醸し出す。

入口脇にさりげなく飾られた牛のレリーフもフランスで入手した
昨年からはシェフ自身が厨房と客席を行き来して、厨房とサービスの両方に目を配る。予約の電話もシェフがいち早く取って、若い衆に指示を与えながら陣頭指揮している。客はシェフと直接話し、料理について尋ねることも出来るのだから、店そのものがいわば「シェフズテーブル」状態。これ以上のもてなしはない。

「ああ、旨かった」と帰って行った客が、月日が経ってから「またあの料理が食べたくて……」と言って戻ってくる。アラジンは、そんな店なのである。


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