海の影響を受けたアイラピーテッドモルト
山崎蒸溜所アイラピーテッドモルト
前回紹介した「山崎蒸溜所ゴールデンプロミス」は、伝説的大麦品種のゴールデンプロミスを原料としてつくりあげられた、ある意味、実験的なシングルモルトであった。今回の「山崎蒸溜所アイラピーテッドモルト」は、スコットランドの北から西にかけて島々が点在するヘブリディーズ諸島の最南端に位置する、アイラ島のピートが主役となっている。
ピーティーで非常にユニークなシングルモルトである。
では、まずピートとは。スコットランドやアイルランドには荒涼とした景観が多くみられる。しばしば冷たい雨に見舞われる湿原、その大地はピート、日本語でいえば泥炭、草炭が、途方もない年月を積み重ねて堆積したものだ。
湿潤ななかでコケ類、ワタスゲ、葦(あし)、ヘザー(ヒース)などの植物が堆積して、空気が触れない条件下でゆっくりと分解、炭化したものがピート。つまり腐植土である。
昔はこれを採掘して乾燥させ、生活燃料として重要な熱源の役割を果たしていた。そしてウイスキーの製造にも欠かせないものだった。詳しくは、かつての記事『ピートとは何か/スモーキーモルトを味わうために』をご覧いただきたい。
次にアイラ島のピート。ラフロイグやボウモアといった世界的に名高いモルト蒸溜所のあるアイラ島は淡路島よりもわずかに大きいくらいの面積で、多くの場所が厚いピート層に覆われている。点在するピート採掘場の位置によって、海水の飛沫、海岸から潮風に吹き飛ばされた海藻や貝殻など、堆積したピートは少なからず海の影響を受けている。
ピーテッドモルトとはピートを焚き、大麦を乾燥させ発芽を止めて原料となる麦芽のことであり、この麦芽を仕込んでつくられたモルトウイスキーのことをいう。そして今回の「山崎蒸溜所アイラピーテッドモルト」は、アイラ島で採掘したピートを焚いて乾燥させた麦芽で仕込んだ原酒だけをブレンドしたシングルモルトウイスキーということになる。
次ページでは「山崎蒸溜所アイラピーテッドモルト」の味わいだけでなく、麦芽のフェノール値や使用された熟成樽についても触れている。(次ページにつづく)