茅葺き屋根がうねる、先進的デザイン

 
イースターエルキーハウス

イースターエルキーハウス

前々回記事『ザ・マッカラントリプルカスク12年/味わい評価』で3製品の紹介をしたが、今回はザ・マッカラン蒸溜所について触れたい。
スコットランドで最も長い川がスペイ川。南から北へ、マレイ湾へと清流を注ぐ。支流を含め、豊かな自然の景色のなかに数多くのモルトウイスキー蒸溜所が溶け込んでいる。スコッチのモルトウイスキーの聖地と語られるこのスペイサイド地方の、木立や牧草地とともに蒸溜所が垣間見える眺めは旅人のこころを癒す。
スペイ川の中流、風光明媚なクレイゲラヒー村の対岸の高台にモルトウイスキーの名品を生みだすザ・マッカランエステートがある。自らの畑で大麦を収穫し、仕込、蒸溜、貯蔵する。大麦農地と蒸溜所を抱いたこのエステート(土地、不動産の意味だが、イギリスでは王室や貴族が所有する一定の区域のこと。また邸宅のある広大な農地)は、東京ドーム約32個分という広大さを誇る。1824年に政府公認蒸溜所となってから、200年近い年月、名声を保ちつづけてきた。シングルモルトウイスキー「ザ・マッカラン」はスコッチの至宝と讃えられるほど優雅に香り立つ。
ラベルにも配されている1700年に建てられたマッカランの象徴であるイースターエルキーハウスは、訪問客をもてなすだけでなく、職人はもちろん蒸溜所関係者のスピリチュアルホームとして温和な佇まいを見せている。
 
斬新で先進性にあふれたザ・マッカラン蒸溜所

斬新で先進性にあふれたザ・マッカラン蒸溜所

そのマッカランの新蒸溜所が2018年5月に完成(蒸溜は前年2017年12月より開始)したことは大きなニュースとなった。旧蒸溜所から400メートルほど離れた場所に、斬新で先進性にあふれた新蒸溜所が建設されたのだった。
遠目には5つの小さな可愛らしい丘があるように見える。「古墳群みたいだ」と微妙なたとえをした人がいたが、これは単純にいえば草葺き屋根だそうだ。緑に覆われた柔らかいフォルムの屋根の下には総ガラス張りの側面があり、そこに木立が映り込み、周辺の美しいランドスケープに溶け込んでいる。
紀元前700年頃のスコットランドによくみられた要塞“ブロッホ”がモチーフという。それがどんな形状のものだったかはわたしにはよくわからない。とにかく5つのドーム型の小山というか草葺き屋根がうねり、連なっている。
 

ラグジュアリーブランドのプライドが香り立つ

 
蒸溜システムが一望できる

蒸溜システムが一望できる

全長は197メートル、幅は60メートルもある。ここに蒸溜所としての設備がすべて整っているのだ。蒸溜所内の詳細は『ザ・マッカラン公式ホームページ』をご覧いただきたいのだが、もちろん設備も拡張されている。
一応、蒸溜器の数を述べておこう。スペイサイド最小のマッカラン型と呼ばれる蒸溜器の形状は変わることがない。初溜12基(旧7基)、再溜24基(旧14基)である。製造においては最新設備を導入することで品質に影響が生じないよう、旧蒸溜所のすべての要素をじっくりと時間をかけてテストを繰り返し、完璧に再現したという。
蒸溜所建築のデザインとしてはラグジュアリーブランドのプライドを示すショーケース的な役割もあるだろう。ドーム型の内部は見学者が生産プロセスを明確に把握できる構造となっており、その先進性に世界のウイスキーファンは目を見張る。設備拡張は中長期的な生産増を見据えたものであることは間違いない。その他、誰もがいろいろとコメントはできると思うが、何よりも近隣の山や丘、木々に見事に調和した姿は壮観、天晴といえるだろう。
さて、12年ものシングルモルト「ザ・マッカラン」に新蒸溜所製造による熟成原酒が加わるのは2030年以降のこととなる。楽しみであることは確かだが、モルトウイスキーづくりには途方もない時間がかかることをあらためて認識させられる。
現代において製品化にこれだけの時間をかけることは驚異ではなかろうか。一滴を慈しんで飲まなければ。さあ、今夜は「ザ・マッカラン」をどうぞ。
 

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