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マージーの愛/もうひとつのメーカーズマーク物語2

物語2は、サミュエルズ家の足跡やビーム家の交流、マージーの経歴やその息子ビル・ジュニアの母の思い出話を紹介しよう。マージーは、自分がビジネスをしているとは考えてもいなかったらしい。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

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大学で化学を専攻したマージー

マージー・サミュエルズ

マージー・サミュエルズ

夫、ビル・サミュエルズ・シニアが目指した世界品質のバーボンを唯一無二、孤高ともいえるプレミアムなウイスキーに高めた、「メーカーズマーク」の母、マージー・サミュエルズの話のつづきをしよう。できるならば前回記事『マージーの愛/もうひとつのメーカーズマーク物語1』をお読みいただきたい。
「メーカーズマーク」が6度の夏を超えて熟成、誕生したのは1959年である。このことをご承知置きいただき話をすすめたい。
ではマージーの経歴から。彼女の家系も19世紀半ばには蒸溜所オーナーであったようで、ウイスキーづくりとまったく縁がなかった訳ではない。彼女はいまでいう理科系女子であり、ケンタッキーのルイビル女子高校からルイビル大学へ進学すると化学を専攻して学位を取り、1933年、禁酒法撤廃の年に卒業している。
かなりの勉強家でセンスもあったのであろう。「メーカーズマーク」のボトルデザインの図面を見ると、マージーが見事な工業デザイナーであることが伺えるのだが、学歴を知るとなんとなく納得がいく。またブランドロゴの書体も彼女の手によるものであり、これも素人のものとは思えない。夫への愛もあっただろうが、もともとデキル人だったのだ。
サミュエルズ家が本格的にウイスキービジネスをはじめたのは1840年、3代目のテーラー・ウィリアム・サミュエルズの時だった。テーラーは当時共和党の重鎮でもあったらしく、リカーンに大統領選挙に出馬するよう促した人物のひとりでもある。1859年、出馬を要請するリンカーン宛のテーラーの手紙が遺されている。
サミュエルズ夫妻と子供たち

サミュエルズ夫妻と子供たち

マージーがビル・サミュエルズ・シニアと結婚したのは1937年のこと。夫は6代目であり、当時はT・W ・サミュエルズ蒸溜所の後継者という立場だった。
面白いことにサミュエルズ家は長年バーズタウンで生活していたが、販売数量世界No.1バーボン「ジムビーム」を生んだジェームズ・B・ビームの隣に住んでいたらしい。そのためマージーもビーム家と交流があった。
それと、ビーム家一族は他蒸溜所のマスターディスティラーや技術者を数多く輩出している名門として知られるが、実はジェームズ・B・ビームの甥、エルモ・ビームがメーカーズマーク蒸溜所創立当初より技術者としてマージーの夫を支えてもいる。サミュエルズ家とビーム家のつながりはかなり深い。

ビジネスとは考えてはいなかったマージー

メーカーズマーク

メーカーズマーク

マージーは夫との間にビル・ジュニア、ナンシー、レスターの一男二女をもうける。長男の7代目ビル・ジュニア(2011年に引退し、その息子ロブ・サミュエルズが現8代目)はロケット科学者で弁護士として優秀であったが、1967年に転身して蒸溜に携わる。
翌68年にはレスターが入社する。レスターはバーボン業界初の蒸溜所見学プログラムを企画した。これが現在、ケンタッキー・バーボン・トレイルへとつながり、業界発展に多大な貢献をした。娘さんもやり手だ。
1985年にマージーが逝去してから29年後の2014年、彼女はケンタッキー・バーボン殿堂入りとなる。そのときにビル・ジュニアが母マージーについての思い出話をしている。その中から、ひとつのエピソードを紹介しよう。
「ハイスクール時代、ある日学校から帰ると、わたしが写真ラボとして使っていた部屋をワックス・テスト(ボトルネックの赤い封蝋)用の設備建造のためにつぶそうとして、大切にしていた機材やストックを勝手に外に持ち出していたのです。そのときわたしはかなりアタマにきましたが、60年ほど前の出来事は今日の記念碑のひとつだったのでしょう」
母は強かった。そして夫への愛、ウイスキー事業への愛をまっすぐに貫き、自分の想いを見事に達成したのである。
ビル・ジュニアは母についてこうも語ってもいる。
「母は、自分がビジネスに携わっているとは考えてもいなかった」
マージーが成したこと、そのすべては夫への愛、夫の生み出したバーボンウイスキーの品質への愛、そのボトルの封を切る飲み手への愛からだった。高品質の証を創造することで、バーボン業界へ多大な貢献をしたのである。(ボトル撮影/児玉晴希)

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