ウイスキーづくりで女性が語られることは稀少
夫とマージー
バーボンの広告でスタイリッシュを気取っても、なんだかモルトウイスキーのほうがお洒落な感じがしてしまうのだ。
近年、ジムビームの肩の凝らない訴求は喜ばしい。気軽に楽しむウイスキーとしてのジムビームの認知度が高まり、ハイボールだけでなくいろんな飲み方がされるようになってきて、少しずつだがバーボンのイメージが変わりつつあるのはいいことだと思う。
そんななかでひとつだけ、このバーボンはちょっと違うな、と見つめているバーボンがある。それは「メーカーズマーク」。このバーボンの滑らかで麗しい香味を開発したビル・サミュエルズ・シニアの妻、マージー・サミュエルズの存在と彼女のアイデアが「メーカーズマーク」のブランドイメージを他ブランドとはひと味もふた味も違う世界へ誘っている。
ウイスキーの世界で取り上げられるブレンダーや技術者はほとんどが男性である。女性は、スコッチ・アイラモルト「ラフロイグ」の1950~70年代にかけてのオーナー経営者だったベシー・ウィリアムソンについて語られるぐらいだ。わたしはマージーも、もっともっと取り上げられていいと思っているし、そう願っている。
マージー・サミュエルズの名を覚えていただきたい
メーカーズマーク
まずボトルのスタイリング。赤い封蝋は“愛”そのものである。
夫が開発したオレンジやハチミツ、バニラといった香味が潜むスイート&スムースなバーボンを、彼女は大切な方へ思いを込めて差し出す手紙のように蝋(ろう)で丁寧に封じた。しかも1本1本手仕事である。蝋の滴り(したたり)はすべて違う。あなた宛の、あなただけのボトルとして、愛飲家に届けるのである。この贈り物にはマージーの、夫への愛、香味への愛、飲み手への愛が込められているのである。
それに「製造者の印」というブランド名はぶっ飛んでいる。勇気がいるネーミングである。イギリスのピューター(錫工芸品)のコレクターだったマージーは、職人たちが納得のいく作品だけに製造者の名を刻印することから、世界品質を目指して夫が生み出した自信作、そして品質への責任を示すためにあえて直球を投じたのである。その決断たるや、なかなか真似できるものではない。
封蝋は愛と信頼の証
バーボンだけでなくスコッチはもちろん、とにかく他にない孤高ともいえるウイスキーを築き上げた女性のことを、皆さんに知っていただきたい。次回まで少々お待ちいただきたい。(次回シリーズ2へつづく)
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