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ティーチャーズの歩みから探るブレンデッドの歴史6

今回は前回の鉄道網の発達を踏まえながら、スコッチウイスキーが世界の酒となる要因のひとつ、大英帝国の領土拡大とそれにともなって活発化した販売促進について触れる。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

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1863年以降、スペイサイドにも流通網

ティーチャーズハイランドクリーム

ティーチャーズハイランドクリーム

前回までの記事で鉄道網がスコッチウイスキーの成長を後押ししたことを語った。そしてブレンデッドウイスキーのモルト原酒としてスペイサイド地方のモルトウイスキーの価値が上がったとも述べた。ではスペイサイドで最初に鉄道と結びつき、近代化した蒸溜所はどこだろうか。
それはモートラック蒸溜所で、ここは1924年に政府公認蒸溜所制度がはじまったと同時にスタートしているが、経営者がいろいろと変わったり、操業停止したりといろいろとあったようだ。1860年頃に再建されたが、1863年に開通した北スコットランド鉄道ストラススペイ線沿いに蒸溜所と貯蔵庫が位置することとなった。またまた「ティーチャーズ ハイランドクリーム」が誕生した1863年のことである。
それから徐々に鉄道との結びつきが重要視され、鉄道と直接に連結していない多くの蒸溜所でも支線を引くようになる。これにより原料の大麦とともに熱源である石炭も効率よく搬入できた。現在、石炭は環境問題もあって歓迎されない部分もあるので前回記事では触れなかったが、石炭直火蒸溜が当たり前の時代のことである。ただし高額な鉄道運賃を支払える経営者ばかりではなかったことも付け加えておく。

大英帝国領土拡大と販売促進活動

ティーチャーズ広告

ティーチャーズ広告

さてスコッチウイスキーが世界の酒となった要因は他にもある。これまで語ったぶどうの木の害虫フィロキセラによるワイン、ブランデーの枯渇による需要拡大。ブレンデッドウイスキーの誕生。鉄道網の充実、だけではない。
19世紀半ば以降、さまざまな分野での技術変革による相乗効果、さらには大英帝国の領土拡大がある。スコットランドからのイギリス自治領や植民地への移住者が増えた。彼らがウイスキーの飲酒習慣を広めたのである。とくにオーストラリア、南アフリカなどは大市場となった。
また19世紀後半は、イギリスでソーダ水が大量に出回りはじめた時代でもある。不慣れな強いウイスキーの味わいも、ソーダ水で割ることによって優しく飲みやすくなる。イングランドの上流階級はブランデー&ソーダを愛していたので、スコッチ&ソーダは受け入れやすく、イングランドから海外の大英帝国領にも普及していった。
こうした市場拡大から販促活動も盛んになった。パブミラーが登場する。ラベルは斬新なものになり、ポスター、そして雑誌広告への出稿が増えていく。
ビジュアルはハイランドの神秘性を物語るものだった。キルト姿のハイランダー、タータンチェック、バグパイプ、アザミの花、牡鹿など。蒸溜所の風景画がよく使われてもいる。キャッチコピーは“最高の古きハイランド”といったものや“いにしえの味わいの洗練”とか“完璧な熟成”などさまざま。飾り文字によるスコッチウイスキーの強調、そして蒸溜所の所在地を大きく扱った広告も多い。
掲載したポスターは1900年前後のティーチャーズ社のもの。下部にアードモア蒸溜所、ケネスモント、アバディーン州、とキーモルトを生む自社蒸溜所の名と場所を明記している。
この19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ふたつの世界大戦による混乱、低迷期を迎えるまでは、スコットランドのウイスキー産業は急成長していくのだった。

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