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ティーチャーズの歩みから探るブレンデッドの歴史3

シリーズ3では、スコッチウイスキーが世界の酒となり成長していく前段階、19世紀半ばのスコットランドの様子と流通網について述べてみた。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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鉄道の発達がハイランドモルトの流通を促進

誕生初期のティーチャーズのボトル

誕生初期のティーチャーズのボトル

ティーチャーズとブレンデッドの歴史シリーズの3回目。シリーズ1では連続式蒸溜機の開発、穀物法撤廃などによってグレーンウイスキーが伸張し、ウイスキー製造に関する法改定もありブレンデッドウイスキーが誕生したことを述べた。シリーズ2ではフィロキセラによるぶどうの木への害でワイン、ブランデーが打撃を受け、ブレンデッドウイスキーがイングランドはもとより他国へと輸出されるようになったことを述べたが、シリーズ3ではスコッチウイスキーが世界へと羽ばたいて行くきっかけとなる世相をウイスキーの観点から語ってみたい。
できるならば「ティーチャーズの歩みから探るブレンデッドの歴史1」「ティーチャーズの歩みから探るブレンデッドの歴史2」を再読されることをお願いする。

スコッチウイスキーが広く流通するようになったのはイギリス・ハノーヴァー朝第6代女王、ヴィクトリア(1819−1901)の時代である。彼女が即位したのは1837年。当時のスコットランドは古都エディンバラや産業革命によって発展しつつあったグラスゴーのあるローランドに比べると、ハイランド地方は辺境の地であった。
エディンバラとグラスゴーが鉄道で結ばれたのは1842年。そこから北部近郊のパース州周辺より、道も次第に改善されはじめた。それまで、ハイランド奥地から悪路をエディンバラへと馬や牛の背に樽を載せて運ばれるモルトウイスキーとしては、18世紀末にはすでに名が知られていたザ・マッカランや1824年に政府公認蒸溜所としていち早くスタートしたグレンリベットなどがあったが、まったくもって厳しい旅を重ねていたといえる。その他でいえば悪路とは無縁の、島から船で輸送できるボウモアやラフロイグといったアイラモルトがローランドに入り込んでいたし、本土でも海沿いにある蒸溜所のほうが流通に便利であった。
エディンバラからハイランドのインヴァネスまで南北の鉄道が開通したのが1863年である。シリーズ2で述べたが、「ティーチャーズ ハイランド クリーム」が誕生した1863年はフランスのフィロキセラ被害やこの鉄道開通など、非常に興味深い年である。そしてハイランドモルトの円滑な流通が見られはじめるのは、ブレンデッドウイスキーの誕生、急成長と見事に合致しているのだ。
ハイランドは1850年代から19世紀後半にかけて鉄道網が充実したのだが、それにともない道路も改善、拡張されていったようだ。

ヴィクトリア女王もスコッチの浸透に貢献

王室の夏の避暑地であるハイランドのアバディンシャーにあるバルモラル城は、1841年から王室に使われるようになり、ここでの生活を気に入ったヴィクトリア女王夫妻が1852年に所有権を買ったものである。
これにより女王夫妻を真似て、裕福なイングランド人や外国人がハイランドを夏の休暇地に選び、狩猟をしながら地酒のモルトウイスキーを飲むようになったともいわれている。彼らが好んで飲んでいたのはワインとブランデーであったから、女王はスコッチウイスキーの浸透に貢献したひとりともいえる。
1855年にはグラスゴーをベースにクライド湾の港からグレーンウイスキーが船積みされ、世界へと輸出された。カナダのノバスコシア、アメリカのボストン、ニューヨーク、カリブ海域の英国領、インドのボンベイやマドラス、ヨーロッパの地中海地域など。
ただしスコッチのモルトウイスキーは人気がなかった。19世紀、モルトウイスキーといえばアイリッシュであった。香味品質がスコッチよりも安定しており、アイルランドの港から大英帝国圏やアメリカへアイリッシュウイスキーが運ばれた。
ヴィクトリア王朝期、とくに19世紀後半、大英帝国領土は拡大してさらに繁栄した。ハイランドモルトもブレンデッドへの貢献に甘んじていたわけではない。
そして「ティーチャーズ ハイランド クリーム」もいろいろな動きがあった。次回のシリーズ4では、19世紀後半の動向を語ることにする。(シリーズ4へつづく)

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