「ニベアの青缶」は万能と話題。その真偽とは
販売名は「ニベアクリームc」(ニベア花王株式会社)。 169g¥497(編集部調べ)というコスパのよさで人気。
ブルーのレトロなパッケージでおなじみのスキンケアクリーム「ニベアクリームc」、通称「ニベアの青缶」ブームが再燃しています。ちなみに、「ニベア」とはラテン語で「雪のように白い」という意味で、家族みんなで全身に使えるクリームなのだとか。
全身用クリームにもかかわらず、情報番組で顔パックに最適なクリームとして取り上げられて以来、女性たちの口コミでオリジナルの使用法が広まりました。最近はSNSなどでさまざまな活用法が提案されており、編集部がネット検索しただけでも以下のような使い道があると謳われています。
フェイスクリーム、リップクリーム、フットクリーム、ハンドクリーム、マッサージクリーム、ヘアオイル、顔パック、ネイルケア、メイククレンジング、さらには、革製品のツヤ出し、シールはがし、木製家具磨き、落書き落とし……などなど。でも、本当に効果があって安全なのでしょうか?
代表的な使い道について検証するため、スキンケア、紳士靴、家事の専門家であるAll About ガイドの3人に、噂の真相を聞いてみました。
<目次>
- 検証1:本当に「ニベアの青缶」をパックとして使って大丈夫?
- 検証2:「ニベアの青缶」は革靴などの革製品磨きに使えるのか
- 検証3:「ニベアの青缶」がシールはがしに使えるって本当?
- ニベアの青缶はシンプルな保湿成分が、肌や革製品のお手入れに有効
【答えてくれたのは……】
All About スキンケアガイド 夏目 円さん
20代から40代にわたる幅広い女性誌で執筆する美容ライター。ビューティトレンドに詳しい。
All About 靴ガイド 飯野高広さん
メーカー勤務後に独立し、紳士靴を中心とした執筆をおこなう。靴磨きへのこだわり、革製品への知識の深さでメディア出演も多数。
All About 家事ガイド 毎田祥子さん
実践的であると同時に、簡単さ・ゆるさ・癒しを感じられる家事術で、マスコミ取材多数。
検証1:本当に「ニベアの青缶」をパックとして使って大丈夫?
コスメの成分にも詳しい、スキンケアの専門家は、ニベアの成分をどう見るか?
まず、「コスメは裏の成分表から見る」というほど成分マニアだという、スキンケアガイドの夏目 円さんに聞いてみましょう。
「ニベアの青缶」の裏には、「顔にも身体にも、全身のスキンケアに」使えると書いてありますが、それはなぜでしょうか?
「『ニベアの青缶』の主成分は、ワセリン、グリセリン、スクワラン、ホホバ油などの、昔から使用されている代表的な保湿成分ですね。これらの保湿成分をバランスよく配合していることで、さまざまな保湿・スキンケアに用いることができると考えられます。しかも、それらがケンカしない絶妙な配合率だから、幅広く使われているのだと思いますよ」
ワセリン、グリセリン、スクワラン、ホホバ油と聞くと、オイル美容ブームの今、話題になるのは納得です。ちなみに、ボディクリームは顔に塗っても大丈夫なのかという問題について聞いてみると……。
「そもそもボディも顔も同じ1枚の皮膚なので、必ずしも“全身用だから顔に塗るのはよくない”、ということはありません。ニベアのように保湿クリームなどのやわらかいテクスチャーでなじみがよいものは顔に使うのもアリですね」
そもそも、顔用に使えるかどうかは、“テクスチャー”が重要だと語る夏目さん。たとえば、硬いバームのような素材を肌に塗布すると、なかなか肌になじまないので、つい力を入れて擦ってしまい、デリケートな顔の皮膚に負担をかける結果に。
「同様に、スクラブや洗浄料などボディ用の“落とすもの”を顔に使うのはやめましょう。また、製品によっては香料の強いものがありますから、顔にのせると刺激になる場合があるかもしれませんね」
冷静に、成分とテクスチャーを見極めるのがコツということですね。
さらに、夏目さんに、「ニベアの青缶」での顔パックを実践してもらいました。肌がキレイなお子さんや肌が丈夫な男性はいいかもしれませんが、大人の女性が「お値段ワンコイン以下」の全身用クリームで満足できるなんてホントのホント!?
スキンケアガイドが、私物の「ニベアの青缶」を使って実験。
……ということで、まずは頬に厚めに塗って、保湿パックを試していただきました。10分ほどのせた後に、化粧水で湿らせたコットンで軽くふき取ると、かさつきが和らぎ、肌がもちもちした感触になるそうです。
「かなりこってりしたテクスチャーなので、つけたまま寝るのは難しそうです。コットンでふき取るだけだと、油分が多少残るのが気になりますが、乾燥がすすんだ肌にはかえっておすすめ。お風呂で顔パックする、というネットの口コミも拝見しましたが、お風呂の蒸気により、肌なじみをよくして油分をオフしやすくする、という視点なのではないでしょうか。結論としては、このコスパで、これほどの保湿力が実感できるのはほかにないかもしれませんね」
検証2:「ニベアの青缶」は革靴などの革製品磨きに使えるのか
スキンケアクリームが紳士靴の靴磨きに使える!? そんな噂に切り込みます。
お話を伺ったのは、あのマツコ・デラックスさんの番組で、「肌よりも靴磨きに命をかける男」と紹介された、靴ガイドの飯野高広さん。靴磨きクリームもスキンケア発想で選ぶのが飯野流と聞きましたが、「ニベアの青缶」はどうなんでしょうか?
「比率こそ異なりますが、革靴のお手入れ用品の『乳化性クリーム』と呼ばれるものと、成分は類似していますね。具体的には、水・ミネラルオイル・ラノリンアルコール・パラフィン・ホホバ油などでしょうか。補湿・補油効果を狙った成分なので、革のお手入れ用品には大概入っていますよ」
では、本物のシューケア用クリームと「ニベアの青缶」でのケアでもっとも違うところはどこなのでしょうか?
片足でこれくらいの分量が適量。つけすぎは禁物です。
「『ニベアの青缶』は、手に取るとマーガリンのようにヌメッとしていて、一般的な革のお手入れ製品のテクスチャーとはかなり異なります。通常は、水っぽくサラサラか、油脂のように固いかのどちらかですね。……かと言って、ニベアの青缶がお手入れ用品として扱いにくいかと言えば、それは嘘で、いざ革の表面に塗るとベトつかず、表面にムラなく伸ばせます。つける量は片足分で指先の表面に薄く乗せる程度がよいでしょう。ただし、いかにもスキンクリームらしいやや甘めの香りなので、そこが気になる方もいらっしゃるのでは?」
そんな「ニベアの青缶」で革靴をケアするとどうなるのか、実際に試してもらいました。写真の向かって左が一般的な乳化性靴クリームで磨いたもので、右の「ニベアの青缶」で磨いたほうは左に比べて輝きがあまり感じられないという結果に。
「通常は添加されている蝋分(例えばカルナバ蝋や蜜蝋など)が、ニベアの青缶には含まれていないからです。ツヤ出し効果も多分に求められる口紅ならばともかく、スキンクリームにはそこまでの蝋分は不要ですからね! とはいえ、革の表面を荒らしたり、革が色褪せたりすることもなく、スーッと極めてスムーズに入り込んで行きました」
つまり、蝋分を含んでいないので、ツヤを出したい革製品を「磨く」ためには使えないということ。
「はい。ですが、裏を返せば、“タフさが売り物でそこまで意識的に光らせる必要のない靴や革製品”なら使用可能とも言えます。例えば、アウトドアシューズに使われているオイルドレザーのように蝋分ではなく油分でどっしり光る仕上げが施されたものや、野球のグローブに使われている革のような厚手でマットな質感のものに用いると効果的かと思われます」
いずれにしても、革製品ではなく人の肌向けに成分配合をしているので、問題がないか必ず個々の革製品の端部でチェックすべきと語った飯野さん。あくまでも、とっさの代用品と考えたほうがよさそうです。しかし、成分的には悪くない、ということなので、レザーの質感にあわせたケアを試してみてはいかがでしょうか?
検証3:「ニベアの青缶」がシールはがしに使えるって本当?
子どもはシールのいたずらが大好き! 家具や家電にはられると大変……。
シール跡が気になったり、小さなお子さんのイタズラで家電などにシールをはられた経験がある方は多いのでは? それが、ニベアを使うとキレイにはがせるのだとか。
「紙製のシールをはがすのに化粧クリームを使うというのは、実はよくある裏技ですよ」
そう語るのは家事ガイドの毎田祥子さん。原理としては、油分がシールの表面にしみこむことでやわらかくなりはがれやすくなるためで、やっかいなシール跡には特に効果的です。
また、一般的なシールはがしは粘着面をはがすためにアルコール分が含まれているため、ニキビ用クリームなどの消毒成分が強いクリームが、より効果的だそうです。
「『ニベアの青缶』の成分だと、ミネラルオイル・シクロメチコン(揮発性のシリコンオイル)・スクワラン・ホホバ油などの油分が多く、さらにラノリンアルコール・パラフィン・クエン酸などのお酢に似た成分も含まれていることにより、粘着剤が緩められるのではないでしょうか」
このように、シールをはがすには、油とアルコールのバランスが重要なようですね。そこで、アルコールが入っている油と、アルコールが入っていない一般的な食用油を比較してみました。
並べてはった紙のシールに、ニベアクリームと食用油を塗り、10分置いてからはがします。
まず紙製シールの表面にまんべんなく塗り、油分が紙にしみこんだのを確認してから、はがしてみました。何も塗らないではがしたときと比較すると、どちらもスッとスムーズにはがれます。ちなみに、すでにこびりついた「シール跡」を取りたい場合は、油分がしみこんだあとに指先でクルクルと擦っていくのが効果的だそうです。
結論としては、今回の実験では、食用油も「ニベアの青缶」も、そこまではがしやすさには差がないことがわかりました。
ただ、食用油が液垂れしやすいのに比べ、ニベアのクリームはペースト状なので、壁面などにはられたシールでも均一に塗布することができます。また、アルコールが入っているので、食用油に比べて、ふき取りやすいのもポイントかもしれません。
使用する際の注意点を聞いてみると……。
「ムクの木のたんすなどは、油分がしみこんで、シミになるので絶対にNGです。ピアノのように、表面にニスが塗ってあるものも、シミや傷みの恐れがあります」
毎田さんの見解から、ツルツルのプラスチックやガラスなどにはられたシールにだけ使用するのがオススメだと分かります。油分がしみこむとシミや変質のもとになることがあるので、基本的には家具や壁には使うべきではありません。環境によっては、栄養成分がしみこんで、カビの温床になることも。こちらもあくまで代用品と考えたほうがよさそうです。
ニベアの青缶はシンプルな保湿成分が、肌や革製品のお手入れに有効
専門家の目でみても確かな品質で、なかなかの万能ぶり。
どの検証でも、ポイントとなる成分は、ワセリン、グリセリン、スクワラン、ホホバ油などの、シンプルな保湿成分。そして、微量のアルコール分でした。
ただし、お肌以外のケアはあくまで代用品なので、シミが目立ちにくい場所でテストをして、上手に活用してみてください。
撮影/吉井 明
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