コーヒーブームの歴史とコーヒー業界の変遷
今、コーヒーマーケットにニューウェーブが押し寄せている。これまで日本では3回ものコーヒーブームが巻き起こってきた。
第一次ブームは、1970年代後半。フルサービスの純喫茶ブームが起こり、オーナー店主がコーヒーを一杯一杯丁寧に淹れるこだわりの喫茶店が次々とオープン。社団法人全日本コーヒー協会によれば、1981年のピーク時には全国で15万4630店もの喫茶店が営業していた。これは、現在のコンビニの総店舗数約5万店の3倍以上に達し、いかに当時は喫茶店が日本全国に広がっていたかを如実に表しているといえるだろう。
続いて第二次ブームは1980年代後半。ドトールコーヒーショップなど、よりコーヒーが手軽に飲めるスタンドコーヒーが増え始め、瞬く間に全国へと勢力を拡大していった。
第三次ブームは1990年代後半。1996年にスターバックスが東京銀座に1号店をオープンさせると、翌1997年にはタリーズも銀座に進出。これらのカフェは共にルーツがアメリカのシアトルということで、シアトル系コーヒーと呼ばれ、質の高いスペシャリティーコーヒーで多くのコーヒーファンを魅了し、日本でも短期間で市民権を得ることとなった。
そして、現在。コーヒーの新たな波が押し寄せ、コーヒーの消費量が増加している。
全日本コーヒー協会によれば、日本は世界でも有数のコーヒー消費国。2012年の統計ではアメリカ、ブラジル、ドイツに次ぐ世界第4位のコーヒー消費大国である。また、コーヒーの輸入量は2013年には50万3137トンと史上最高を記録した。
この世界的に見ても大きな日本のコーヒーマーケットを巡り、最近では実に多種多様な企業が入り乱れ、自社の領土を広げようと激しい争いが展開されている。今回はこのコーヒーマーケットに到来したニューウェーブの下で繰り広げられる壮大な“コーヒー戦争”を俯瞰していくことにしよう。
<目次>
コーヒーのトレンドを牽引するコンビニコーヒー
今の第四次コーヒーブームを牽引するのは何といってもコンビニコーヒーだろう。2013年にセブンイレブンが店内で淹れ立てのカウンターコーヒーをわずか100円で販売開始すると人気が爆発。わずか1年強で5億杯を販売する大ヒット商品となった。
コンビニ各社はコーヒーを集客の目玉となる戦略商品と位置付け激しい争いを繰り広げる。当初は高価格で販売していたファミリーマートやローソンも遂にはセブンイレブンと同じ100円まで値下げして販売増を狙うなどさらに競争が激化している。
コンビニコーヒーに苦戦するマクドナルドと缶コーヒー業界
このコンビニコーヒーの煽りをもろに食らったのがマクドナルドだ。マクドナルドはコンビニに先駆け2008年にコーヒーを刷新。「プレミアムローストコーヒー」として1杯100円で提供し始めたところ大ヒット。発売から1年でおよそ2億6000万杯を売った。ところが最近ではコンビニに顧客を奪われ苦戦しているのが現状だ。同じように苦戦しているのが缶コーヒー業界。缶コーヒーは2005年をピークに減少傾向が続き、富士経済の調べによれば2013年の市場規模は対前年比マイナス2%の7390億円に落ち着いた模様だ。
2005年以降、自動販売機の設置台数が減少傾向にあるうえに、主要な販売網であるコンビニで淹れ立ての本格的なコーヒーが手軽に買えるようになったのは業界にとって深刻な打撃となった。最近では缶コーヒーでもコーヒー豆や製法、香りにこだわった本格的なコーヒーを開発することによって苦境を乗り切ろうと懸命だ。
縮小するインスタントコーヒー市場で一社気を吐くネスレ日本
また、インスタントコーヒーもコーヒーブームの陰で消費が伸び悩んでいる。コーヒーには大きく分けて、コーヒー豆を直接挽いて作る「レギュラー」と、抽出液を乾燥させて粉末にした「インスタント」の2種類があるが、日本コーヒー協会によれば、1983年には一人一週間あたり5杯のインスタントコーヒーを飲んでいたのが2012年には4.46杯と若干ではあるが消費量が減っているのだ。同時期の合計のコーヒー消費量では、8.60杯から10.73杯と、一人一週間あたり2杯以上コーヒー消費が伸びていることを考えれば、インスタントコーヒーの落ち込みが鮮明となる。
ただ、縮小傾向にあるインスタントコーヒーのマーケットで一社気を吐くのがネスレ日本。
日本国内で1年間に消費されるコーヒーはおよそ500億杯と目されるが、同社のシェアは家庭内では37%に達する。一方、家庭外ではわずか3%に留まり、家庭外の市場開拓がネスレ日本の最重要課題であった。そこでオフィスや病院、学校などにコーヒーマシンを無償で提供するアンバサダー制度を開始。アンバサダー制度を通して、ネスレのマシンを導入し、購入したコーヒーカプセルをセットすれば、手軽においしいコーヒーが1杯あたり20円程度で楽しめるという仕組みだ。この低コストでコーヒーが提供される仕組みが支持を受け、アンバサダー制度は開始からわずか2年で導入企業が14万件を突破。ネスレ日本としては2020年までに現在の3倍以上の50万件にまで引き上げる計画だ。
このいわば『各オフィスにネスカフェの“簡易自動販売機”を設置する』というプラットフォーム戦略が功を奏してネスレ日本の業績はインスタントコーヒー市場に吹き荒れる逆風をもろともせず絶好調に推移している。
本格販売が支持されるカフェと喫茶店
コンビニコーヒーに負けず成長を続けるのが第3次コーヒーブームを牽引してきたスペシャリティーコーヒーを提供するカフェ陣営だ。代表格のスターバックスは2014年9月から限定で1杯およそ2000円の希少性のあるコーヒーを提供したり、品質を改善した上で値上げを実施したり、コーヒーブームに支えられた強気の経営で本格志向の顧客を取り込みさらなる成長を目指している。意外なところでは第一次ブームの牽引役となったフルサービスの喫茶店も最近では一部に人気の兆しがある。事業者数自体は2012年時点で7万454店とピーク時の半分以下まで減少しているが、名古屋発祥でモーニングが人気のコメダ珈琲店やドトールと経営統合した日本レストランシステムが運営する星乃珈琲店などはコーヒーを飲む環境を含めて熱烈なファンに支持され業容を拡大している。
また、アメリカでは日本の喫茶店文化にインスパイアされたオーナーが1杯1杯丁寧に入れるマイクロ・ブリュー・コーヒーを提供する「ブルーボトルコーヒー」が急成長。GoogleやTwitterの創業者もその味に惚れ込み、出資を決定するなどアメリカで大きな波を起こした同社が、遂に日本でも2015年に清澄白河に1号店をオープンさせる。日本の原点回帰ともいえるマイクロ・ブリュー・コーヒーに、今後益々本物志向が高まるであろうコーヒーのニューウェーブを加速させる台風の目としての期待がかかる。
このように日本における、第四次コーヒーブームは消費者のニーズの多様化を反映して、多種多様な広がりをみせている。今後も新たな飲用シーンの提案で日本のコーヒーマーケットがさらに盛り上がりをみせるのは間違いないだろう。
■ 参照サイト:
社団法人全日本コーヒー協会
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