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山崎蒸溜所90周年(7)/秀吉・利休と山崎

山崎蒸溜所は91年目に入り、100周年以降に製品化されるモルトウイスキーが仕込み、蒸溜されつづけている。山崎90周年シリーズ企画7回目の今回は、秀吉、利休、そして一寸法師伝説と山崎について語ってみる。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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天王山の戦いと侘び茶

妙喜庵

妙喜庵。この中に待庵がある

日本での本格モルトウイスキーづくり発祥の山崎蒸溜所は、今秋、建設着手から90周年となり、91年目に突入した。これまで山崎と日本の歴史、文化との関わりを述べてきたが、今回は武将と茶人の話をしよう。
この地が大舞台となる歴史的大事件のひとつが1582年、山崎の合戦。天王山の戦いともいう。
織田信長が重臣、明智光秀に討たれた京都・本能寺の変が起こる。中国地方に出陣していた羽柴秀吉は主君、信長の敵を討つため4万の大軍を率いて西国街道を驚異的なスピードで駆け戻り、山崎の地で光秀と対峙した。
秀吉軍を京の都に上らせたくない光秀としては、この狭まった自然の関門で踏みとどまり秀吉を討ち破るしかなかった。
結果は皆さんご存知の通り、秀吉が光秀を破る。そして豊臣秀吉と名を改めて天下人となるのだが、後に戦いの場であった山崎の地を抱いた「天王山」は雌雄を決する天下分け目の戦いの代名詞となる。いまでもスポーツをはじめとしたさまざまな戦いの日本一決定戦や雌雄を決する場面に、しばしば「天王山」という言葉が用いられるのは、秀吉と光秀の山崎の戦いに喩えたものだ。

16世紀末のそんな激動のひとコマの中に、すべてを削ぎ落したかのような静の美、侘びの精神が醸成されている。
茶聖、千利休。利休は山崎城を築いた秀吉のために、天王山の中腹に茶室、待庵(たいあん)を築く。天王山の竹林に湧く清水で秀吉に茶を点て、禅を談じ、侘び茶の世界をこの地で大成させた。山崎の天然水に、利休も惚れたのである。
待庵は後世に移築され、JR山崎駅すぐそばにある妙喜庵に遺る。国宝であり、我が国最古の茶室建造物であり、利休の遺構としては唯一のものであるとされている。

一寸法師と願掛けの宝積寺

宝積寺三重塔の桜

漱石も愛でた、宝積寺三重塔の桜

山崎には他にも秀吉に縁のある遺跡がある。そのひとつが一寸法師伝説の残る宝積寺(ほうしゃくじ)だ。天王山中腹にあり、724年に行基が聖武天皇の勅命を受けて開基したと伝えられている。
聖武天皇が皇太子の時に、夢に龍神が現れて授けられたとされる“打出”と“小槌”を祀ってあり、別名「宝寺」、また「大黒天宝寺」とも呼ばれる。御伽草子に登場する一寸法師はこの寺で修行したという伝説がある。
秀吉は光秀との合戦において、宝積寺に本陣を置いた。彼が座して天下統一を考えた出世石、戦勝の礼に一夜で建立したとされる三重塔などこの寺には見所が多い。また1864年、禁門の変では尊王攘夷派の十七烈士の陣地にもなった。
こうした戦だけでなく文人とも縁がある。小倉百人一首を編んだ歌人、藤原定家は『明月記』に1202年宝積寺を訪れたと記しているし、明治時代には夏目漱石もここの桜を愛でている。
21世紀のいまも願かけの寺として名高く、多くの参拝者が訪れている。ジャパニーズウイスキーの創始者、鳥井信治郎も日本でのウイスキーづくりの成功を宝積寺で祈ったかもしれない。(撮影/川田雅宏)

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