一戸建ての売却/一戸建ての売却の基礎知識

家の売却~契約条件の合意から契約締結まで

契約の交渉がまとまれば、いよいよ売買契約の締結です。これまではあくまでも売却の依頼主、売却希望者であったのが、契約をすることによって法的な義務や責任を伴う売主の立場となりますから、失敗や間違いがないようにしっかりと準備をしたいものです。(2017年改訂版、初出:2010年11月)

執筆者:平野 雅之


家の買主が見つかり契約条件の調整が終われば、いよいよ売買契約の締結へと進みます。契約をすることによって、そこからは売主としての法的な義務や責任を伴う段階になりますから、くれぐれもミスがないようにしなければなりません。

今回は買主との間で売買契約を締結するまでの流れや段取り、注意すべきポイントなどについて確認しておくことにしましょう。


売渡承諾書に署名押印をする

握手

交渉は事前にしっかりと済ませ、気持ちよく売買契約へ進みたい

買主(購入希望者)から「買付証明書」または「購入申込書」を受け取っているときには、契約条件に合意した段階で今度は売主から買主に対して「売渡承諾書」を出します。

この書面自体はたいてい媒介をする不動産業者が作成しますので、売主は署名押印をするだけです。それと同時に不動産業者は売買契約締結の日時や場所の設定など、具体的な段取りに入ります。

ただし、買付証明書や売渡承諾書などは法律で決められたものではなく、これらの書面による法的な拘束力もありません。不動産取引における慣例的な書面のやり取りですから、どちらか一方または両方の書面がないままで契約のセッティングが行なわれる場合もあります。


付帯設備のチェックをする

たいていの場合は、媒介をする不動産業者が「付帯設備状況確認書」(業者によって書類の名称が異なります)を用意しています。

居室、リビング、キッチンなどに取り付けられたエアコンや照明、その他諸設備の有無(買主へ引き渡すか、取り外すか)や、故障や不具合の有無などを記入するようになっています。

売買契約締結のときに、その場で記入させられるケースも少なくありませんが、できれば事前に「付帯設備状況確認書」の用紙を受け取って、一つひとつの状況をしっかりとチェックしながら記入をしておきたいものです。


売主の告知書を作成する

宅地または建物の過去の履歴や瑕疵など、売主でしか分からない事項について、国土交通省では「売主に告知書を提出してもらい、これを買主に渡すことが望ましい」と指導をしています。

まだすべての業者がこれに従っているとはいえませんが、告知書への記入を求められた場合には知っていることを隠さず正直に書くことが大切です。

書類自体は不動産業者が用意しますが、何らかの問題点が存在するときにここで虚偽の記載をすれば、家の引き渡し後に賠償を求められるような事態にも発展しかねません。

なお、上記の「付帯設備状況確認書」の中の一項目として、建物について過去のシロアリ被害の有無、雨漏りの有無、構造上主要な部位の木部の腐食の有無、およびこれらの修繕履歴などを記載する欄が設けられている場合もありますが、告知書の場合はもう少し踏み込んだ内容となっていることが多いでしょう。


売買契約に同席できない共有者からは委任状をもらう

売主が複数の場合にその全員が売買契約に立ち会うことができれば問題はありませんが、同席することのできない共有者がいるときには、契約に臨む共有者の一人に対する委任状(印鑑証明書添付)をもらわなければなりません。

とくに遠隔地に住む共有者の場合などには、余裕をもって早めに準備をすることが必要です。

委任状をもらうだけではなく、契約に同席できない共有者に対しては、媒介をする不動産業者や依頼を受けた司法書士が本人確認のため、事前に会わせていただく場合もあります。


売買契約を締結する

売買契約は特別な事情がないかぎり、買主側の媒介業者もしくは売主側の媒介業者のどちらかの店舗(事務所)で行なわれます。

当日、売買契約締結に先立って宅地建物取引士により買主への重要事項説明がされることもあります。このとき、売主も重要事項説明に立ち会ったうえで、買主と同様に「説明を受けた」という署名押印を求められる場合も多いでしょう。

ただし、最近では契約当日ではなく事前に買主への重要事項説明を終わらせているケースも次第に増えつつあるようです。

売買契約は、売主と買主、およびそれぞれの媒介業者の担当者、宅地建物取引士が一堂に会して進められます。

売買契約書の読み合わせをし、質問事項や不明事項の確認をしますが、売買契約書に記載された内容は原則として最終的な合意内容であり、これに署名押印をすればその時点で契約は有効に成立します(停止条件付契約を除く)。

分からないことがあるときには決してそのままにせず、納得できるまで説明を受けるようにしましょう。契約の席で売主と買主が話し合い、その場で特約条項を追加することもないわけではありません。

売買契約書の内容に問題がなければお互いに署名押印をします。中古住宅の売買のときには、契約書を2通作成することが多いでしょう。

なお、売主が押印に使う印鑑は原則として印鑑登録をした「実印」ですが、印鑑証明書を売買契約時に提出するのかどうかはケースバイケースです。不動産業者から指示があればあらかじめ用意しておきます。

不動産業者ごとに契約書類の体裁や、やり方が違うために一概にはいえませんが、売買契約書のページ間の「契印」や、2通の契約書の間の「割印」を求められる場合も多いでしょう。どこに押印が必要なのかは担当者の指示に従ってください。

また、契約書には売買金額に応じた収入印紙が必要であり、原則として契約締結時に契約書へ収入印紙を貼って「消印」をします。

消印は収入印紙の再利用を防ぐことが目的ですから、必ずしも契約書に押した印鑑と同じである必要はなく、サインペンなどで線を入れるだけでもよいのですが、契約書に用いた売主と買主双方の印鑑で消印をすることが一般的です。

契約締結と同時に買主から売主に対して手付金が支払われ、売主からは買主に対して領収証を発行します。領収証の用紙はあらかじめ媒介業者が用意し、売主がその場で署名押印をするだけの場合が多いでしょう。

ちなみに、領収証に収入印紙を貼付する必要はありません(個人が売主で、営業に関しない金銭の受け取りの場合)。

売買契約に要する時間は、重要事項説明に立ち会う場合は2時間ほど、それがない場合は1時間ほどが目安です。ただし、契約のときになって新たな交渉事が生じるなど、かなりの時間を要することもあり、仕事の合間に契約を済ませるような感覚では難しい場合も少なくありません。

なお、買主から受け取った手付金はなるべく使わないようにするべきです。融資利用の特約などにより契約が白紙解除され、手付金の全額を返金しなければならなくなるケースもあります。

また、自身の買換えで新居購入の手付金に充当したい場合でも、媒介をする不動産業者とよく相談をしてください。


買主との握手は気持ちよく!

売買契約締結の一連の段取りが終わったときに、媒介業者が「おめでとうございます」と言いながら、売主と買主が握手をするように促す場合があります。

あくまでの業者の演出の一つで、どちらかが女性のときには自重することもあるでしょうが、男性同士、あるいは女性同士であればお互いに気持ちよく握手をするようにしましょう。

慣れていないと照れくさいような場合もあるでしょうが、契約が終わってからも引き渡しまでの間、場合によってはそれ以降も重要な関係となる相手ですから、印象を悪くすることはできるかぎり避けたいものです。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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