一戸建ての売却/一戸建ての売却に関する法制度・税制

マイホームの売却と買換えの特例

個人がマイホームを売却して利益が生じたときに使えるものとして「3,000万円の特別控除」のほかに「買換えの特例」があります。どのような場合に「買換えの特例」が適用されるのか、制度の概要や要件を詳しく解説します。(2017年改訂版、初出:2006年2月)

執筆者:平野 雅之


個人がマイホーム(居住用財産)を売却して利益が生じたときに使える特例には、前回説明した「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」のほかに、「買換えの特例」(特定の居住用財産の買換えの特例)があります。

今回は、この「買換えの特例」について少し詳しくみていくことにしましょう。


譲渡所得が3,000万円を超えたら「買換えの特例」を検討する

一戸建て住宅
古くから所有する自宅を売ると、利益もそれなりに……
居住用財産の売却などによる譲渡所得が3,000万円以下のときは適用要件にあてはまるかぎり「3,000万円の特別控除」を利用すればよく、「買換えの特例」のことを考える必要はありません。

譲渡所得が3,000万円を超え、かつ、「買換えの特例」の適用要件を満たすときに、それぞれの内容を検討したうえで「3,000万円の特別控除」と「買換えの特例」のどちらを適用するのか選択することになります。

ただし、検討する際には「買換えの特例」があくまでも「課税の繰り延べ」であることに留意しなければなりません。

マイホームを売却して、その代金で新たにマイホームを購入すれば、買換えに充てた分の金額については譲渡がなかったものとみなされて課税されないのですが、買換えたマイホームを将来ふたたび売却したときには、原則として繰り延べられた分に対しても、まとめて課税されることになるのです。

また、売却代金のうち一部を買換えに充てなかったとき(一部を手元に残したり他の用途で支出したりしたとき)、その分に対しては長期譲渡所得の一般税率20%(所得税15%+住民税5%)により課税されます。

実際には以前の住宅ローンの返済などで手元に現金が残らなかったとしても同じことです。この場合の譲渡所得の計算において、譲渡資産の取得費譲渡費用などの必要経費は、買換えに充てなかった分に相当する割合に応じて控除することができます。

なお、たとえば4,000万円で購入したマイホームを6,500万円で売っても、譲渡所得が3,000万円以上となるケースもあります。譲渡所得についての考え方は ≪マイホームを売却したときの税金の基礎知識≫ をご参照ください。


買換えの特例の適用要件とは?

買換えの特例(特定の居住用財産の買換えの特例)を適用するための要件は次のとおりです。ちなみに、この特例とは別に従来は「相続等により取得した居住用財産の買換えの特例」があったものの、2007年3月31日までの譲渡をもって廃止されました。

〔譲渡資産(売却するマイホーム)の要件〕

2017年12月31日までに譲渡をすること

2018年度の税制改正で適用期限が延長される可能性も高いため、2018年1月1日以降については改正内容をご確認ください。
 
自分が住んでいた国内の家屋とその敷地(借地権の場合を含む)を譲渡すること

かつて住んでいた家屋とその敷地である場合には、住まなくなってから3年目の年の12月31日までに譲渡することが必要です。

家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合、互いが生計を一にして同居する親族であり、買換えの後も同居すること、買換え資産で居住を開始するまで親族関係を維持することなどの要件を満たせば、どちらも買換えの特例の適用を受けることができます。

ただし、その場合には下記の各要件をともに満たすだけではなく、譲渡による収入金額の割合に応じて買換え資産を取得しなければなりません。
 
譲渡する年の1月1日時点で、家屋とその敷地の所有期間がいずれも10年を超えていること

家屋を取り壊してから敷地の譲渡をする場合、取り壊した年の1月1日時点で10年を超えているとともに、取り壊した日から1年以内に譲渡契約を締結することが必要です。

また、家屋の取り壊しがその敷地の譲渡のためであるとともに、敷地の譲渡契約締結までの間に貸付け(たとえば駐車場や資材置場など)その他の目的で使用していないことが必要です。ちなみに、契約締結から引き渡しまでの間については利用目的の制限がありません。

震災、風水害、火災など一定の災害により家屋が滅失した場合には、滅失した年ではなく、その敷地を譲渡した年の1月1日時点で所有期間(災害で滅失しなければ所有していたであろう期間)を判定します。ただし、家屋が滅失してから3年目の年の12月31日までにその敷地を譲渡しなければなりません。

なお、災害による家屋の滅失の場合には、譲渡契約締結の前にその敷地を貸付けたり他の用途に使用したりしていても特例の適用を受けることができます。

また、家屋を建て替えた場合の所有期間は、建て替えた後の期間によって判定されるほか、敷地の中に所有期間10年超の部分と10年以下の部分があるときには、10年超の部分だけが特例の対象(譲渡所得を面積の比率により按分する)となります。
 
譲渡する家屋での居住期間が通算して10年以上であること

その家屋に居住していなかった期間がある場合には、その期間を除いて実際に居住していた期間の合計を計算します。
 
譲渡する相手が、配偶者や直系血族、同居する親族、生計を一にする親族、内縁関係者およびその親族、特殊な関係のある法人など、特別な関係者ではないこと
 
譲渡する年の前年または前々年において、他の居住用財産の課税の特例の適用を受けていないこと
 
2014年1月1日以降の譲渡にあっては、譲渡価格が1億円を超えないこと

以前は譲渡価格の制限はありませんでしたが、2010年度の税制改正により譲渡価格の要件が加わり、2010年1月1日以降は2億円以下、2012年1月1日以降は1億5千万円以下、2014年1月1日以降は1億円以下となっています。


〔買換え資産(購入するマイホーム)の要件〕

家屋の登記上の床面積が50平方メートル以上であること

店舗などとの兼用住宅の場合には、居住用部分のみの床面積が要件に該当しなければなりません。また、物置など付属建物で居住用家屋と一体で利用されるものがある場合には、その面積を含めます。
 
敷地の面積が500平方メートル以下であること

マンションの場合には敷地の持分面積となるため、これが500平方メートルを超えることはないでしょうが……。また、店舗などとの兼用住宅の場合は敷地全体の面積で判定します。

なお、買換え資産の隣地敷地などを買い増したような場合には、譲渡年の前年から翌年までの3年間における取得分の合計面積で判定されます。
 
既存の耐火建築物(中古マンションなど)を取得する場合には、取得日の時点において建築後25年以内であること、もしくは一定の耐震基準に適合することが証明されていること

建築後25年を超える耐火建築物では、次のいずれかの証明書類を添付します。

耐震基準適合証明書
建築士、指定確認検査機関登録住宅性能評価機関のいずれかが証明したもので、取得の日の前2年以内に、その証明のための調査が終了していること

住宅性能評価書の写し】
取得の日の前2年以内に評価され、耐震等級が1以上であること

【既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約の締結を証する書類】
一定の要件に適合する保険契約で、買換資産の家屋の取得日前2年以内に締結されたもの

なお、一戸建てなど木造住宅について築年数の規定はありませんが、木造では建て替えられるケースが多いことを想定しているものと考えられます。
 
譲渡した年の前年1月1日から翌年12月31日までの3年間のうちに、国内で買換え資産を取得すること

譲渡した年の翌年に買換え資産を取得する見込みの場合には、あらかじめ住所地(納税地)を管轄する税務署長の承認が必要です。また、譲渡資産の場合とは異なり、買換え資産は親族などからの取得であっても特例の対象となります。

災害による買換え資産の滅失、買換え資産の売主業者の倒産、海外転勤、その他一定のやむを得ない事情があるときには、期限内の取得や居住開始 (次項要件) ができなくても特例の適用を受けられる場合があります。

やむを得ない事情で買換えを断念した場合には、譲渡した年の翌々年4月30日までに修正申告をしたうえで、「3,000万円の特別控除」(および軽減税率の特例)の適用に切り替えることができます。

なお、やむを得ない事情がないままで期限内に買換えができなかった場合には、修正申告にあわせて本来の税額を納付しなければなりません。
 
譲渡した年の翌年12月31日までに買換え資産での居住を開始すること

譲渡した年の翌年に買換え資産を取得する場合には、居住開始期限が譲渡した年の翌々年12月31日までとなります。

買換え資産の取得前、あるいは買換え資産での居住開始前に譲渡した人が死亡した場合、死亡前に買換え資産が具体的に確定しており、かつ、期限内に相続人が居住を開始すれば、被相続人(亡くなった人)の譲渡所得についてこの特例を適用することができます。

買換え資産を取得したものの、やむを得ない事情がないままで期限内に居住を開始しなかった場合には、取得した年の翌々年4月30日までに修正申告のうえ本来の税額を納付しなければなりません。


他の特例との関係はどうなる?

買換えの特例の適用を受けると、買換えたマイホームに対する住宅ローンを借りたときでも「住宅ローン控除」の適用を受けることができませんから注意が必要です。

また、買換えの特例を適用する際には「3,000万円の特別控除」や軽減税率の特例などを重ねて適用することができないため、あくまでもどちらか一方を選択して適用することになります。


買換えの特例の確定申告

買換えの特例の適用を受けるためには、所定の書類を揃えて譲渡した年の翌年2月16日から3月15日の間に確定申告をしなければなりません。

このとき、譲渡した金額よりも少ない金額で買換えたのであれば、その差額を収入金額として譲渡所得の計算(および納税)をすることになります。


確定申告書の添付書類

〔共通〕

譲渡所得の内訳書(計算明細書)
 
譲渡したときの売買契約書の写し
 
譲渡した資産の登記事項証明書
 
住民票の写し(譲渡した日から2か月を経過した日以後に、譲渡した資産の所在地の役所で交付を受けたもの)、または戸籍の附票の写し

〔譲渡した年の翌年に取得する見込みの場合〕

買換えの承認を受けるための申請書(買換え資産の明細書)

買換え資産に関する下記の書類は、取得した年の翌年に改めて提出します。

〔既に買換え資産を取得している場合〕

買換え資産の売買契約書、領収書の写しなど(取得価額を明らかにするもの)
 
買換え資産の登記事項証明書
 
耐震基準適合証明書住宅性能評価書の写し、または既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約の締結を証する書類(築25年を超える耐火建築物に買換えた場合)
 
住民票の写し(買換え資産の所在地の役所で交付を受けたもの)


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不動産売買お役立ち記事 INDEX

マイホームを売却したときの税金の基礎知識
マイホームの売却と3,000万円の特別控除
マイホームを売却したときの所得税と住民税
マイホームの売却で損失が生じたときの特例

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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