起業・会社設立のノウハウ/フリーランスになる

古川皓一さんに聞く、バイオリン職人の世界(3ページ目)

フリーランスが個人事業として“1人1企業”なら、職人は、1人で最終製品を造り上げる“1人1メーカー”です。今回は、匠を目指して修行に励む古川皓一さんに取材、現代のバイオリン職人の世界をご紹介します。

執筆者:塚田 祐子

バイオリン職人としての将来展望は?

---日本で職人として一本立ちするには何が必要ですか?

いきなり独立してお店をオ-プンするのは難しいと思います。まずは業界の中に入って経験と実績を積んで、職人としての信用を得ていかなければならないと思います。おそらく、お客さんとだけの付き合いでは成り立たないと思います。

また、新しい楽器を作ってもすぐ売れるわけではないので、収入の安定には、楽器屋さんとのつながりを持って、修理の分野でも仕事ができるようにならないとだめです。修理には、製作とはまた異なった勉強が必要となります。

---楽器を販売するには、どんな方法がありますか?

お客さんに直接買ってもらうのが一番うれしいのですが、今のところ楽器屋さんに買ってもらうか委託販売で置いてもらうのが多いです。何十万もするものですからネットで見ただけでポンポン売れる物ではないと思いますし、僕もまずは手にとってみてほしいと思います。

僕が通った学校では、卒業生を中心に「 PIACERE(ピアチェーレ)」というグループを作り、活動を初めています。今まで日本になかった「独立した職人達が組織を作って製作・販売活動を行う」というものです。イタリアでは300年前から行われています。

---バイオリンの価格はどのように決まるのですか?

新作楽器の価格は、その職人のランクや、実績などで決まります。手作りのものなら最低でも30万円以上、一流の職人によるものだと300万円以上するものまであります。

古いバイオリンの有名なものでは、億単位の値が付いているものもあります。製作者、楽器の状態、素性の確かさなどに加えて、骨董的な価値も加わってそのような値段になっているようです。

---職業としての将来展望はどうですか?

国内のバイオリン人口は10万人程度と言われていますが、嬉しいことに、大人のためのバイオリン教室が増えたりして、バイオリンを弾く人自体は増えてきているようです。

最初は手軽な安い楽器や、ヤマハの消音の電子バイオリン(※「サイレントバイオリンSV―100」は1万本を超える大ヒットを記録。)で始めるようですが、上達すると共に、本格的な楽器に換えていったり、弓の毛替えや楽器の調整などで職人の需要も増えると思います。

しかし、他の業界と同様に、バイオリンの世界にも中国人や韓国人の職人が増えてきたので新作楽器では競争が起こるかもしれません。

---古川さんの夢は?

自分の工房を構えて、独立して食べていけるようになりたいです。 自分の楽器をいろんな人に弾いてもらい、その楽器が100年後も200年後も使われていたらいいなと思います。

でも、将来の夢というと、実際には、人間として完成というか内面的な充実とか、そんなことにあこがれています。

取材後記

去年の11月、科学技術館で開催された「弦楽器フェア」(主催:日本弦楽器製作者協会)の会場で、古川さんにバイオリンのことを色々と教えていただきました。

会場は、バイオリンを習うちびっ子から大人までが集まって大盛況。館内には、試奏する音色が響き渡っていました。楽器には縁のない私ですが、思わず習ってみたくなるほど、久々に好奇心が刺激されました。

自分が作ったものを、直接ユーザーへ届けられる。そして、その楽器が、時を超えて何百年もの間生き続ける。消費を謳歌した時代の次には、こうした本来のモノ作りの復権があるのでは、と感じたりした一日でした。

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