「世間話」と「本題」とのバランス
初めてのお客さんを相手に商談をするとき、難しいのは、最初にどのレベルの話題をお客さんに振ればいいのかということです。例えば、営業マンがいきなり「納品はいつぐらいをご希望ですか」と聞いたとしたら、お客さんは、「ちょっと話を聞いてみたいと思っただけなのに、いきなり売り込みモードかよ」と身構えてしまいます。
かといって営業マンが、「すっかり秋めいてまいりましたね。今週の天気はどうなんでしょうね」なんて話から始めたら、お客さんは、「おいおい、世間話はいいから早く本題に入ってくれよ」とイライラさせられます。
最初に振る話題は、「売り込み」でもないし「世間話」でもない中間ぐらいのレベルが大事。Aさんはこれがうまかったんですね。
その英語学校では、まず最初に質問シートを渡されて、TOEICの点数や英検の級数などを書き込まされました。Aさんはその質問シートを見ながら、私に「TOEICの点数が925点なんて、すごく高い英語力をお持ちですね。ちなみのこの点数はいつぐらいの時期におとりになったのですか」と質問してきたのですね。この質問は世間話であると同時に、相手の状況を探る質問でもあります。だから私は身構えることもなければ、イライラすることもなく、Aさんと接することができたのです。
さて営業マンは、最初に振った話題に対してお客さんがどう答えるかによって、次に振る話題のレベルも変えなくてはいけません。もし相手が
「925点をとったのは、今から●年前のことです。あの頃から英語力自体は落ちていないとは思うのですが、アメリカの田舎町に行って訛りの強い言葉を話す現地の人と完璧なコミュニケーションがとれるかというと、まだまだなんですね。何とかその域にまで達したいんです」と答えたとしたら、「このお客さんはかなり本気だな」と判断できます。
けれども、相手が「925点とったのは今から●年前のことなんですが、あのときはすごい勉強しましてね。大学受験のときよりも真剣でしたねぇ。」などと世間話をしてきたら、「このお客さんは、今日はぶらっと学校に立ち寄ったぐらいなんだろうな」と判断できます。
最初に探りの質問を入れて、相手の本気度が高そうだったら、次は本題に近い話題を振ってみます。けれども相手の本気度が低そうだったら、もう少し世間話寄りの話を続けてみます。こうして話題のレベル合わせをしていくわけです。Aさんは、このバランスについても抜群でした。