営業のノウハウ/営業の商談・ヒアリング

勝海舟から学ぶ営業に役立つ交渉術

今回は、江戸無血開城の立役者、勝海舟から学べる営業に役立つ交渉術をご紹介します。「交渉って、苦手だな」そんなノンキなことを言ってるあなた! ビジネス交渉では、負けても命まではとられません。しかし、歴史をたどれば命がけの交渉が数多くあるのです。

西野 浩輝

執筆者:西野 浩輝

営業ノウハウガイド

勝海舟から学ぶ営業……交渉術の極意

勝海舟から学ぶ営業・交渉術

新生日本の礎を築いた勝海舟

営業マンは、毎日がお客さんとの交渉の連続です。値段の交渉をしたり、納期の交渉をしたり、数量の交渉をしたり……。やっぱり営業マンたるもの“交渉の達人”になりたいものですよね。

でも実際には、「どうも私は、切った張ったの交渉ごとは苦手で……」という人が少なくないんですね。自分が思っていることを主張できず、何でもお客さんのいいなりになってしまいがちです。

しかし当たり前のことですが、交渉とは、相手の要求を全面的に受け入れることではありません。交渉とは、お互いが納得できる妥結点を見つけるために行うものです。

営業マンに限らず、どうも日本人全般が、交渉ごとが苦手な国民であるような気がします。だってアメリカ人と違って、お互いの主張が違うときに、議論をしあうというようなお国柄ではないですからね。

けれども歴史を振り返ると、日本人の中にも“交渉の達人”といえる人物が存在します。それは、幕末から明治維新にかけて活躍した勝海舟。

今回は、勝海舟から“交渉術の極意”を学びたいと思います。
 

<目次>

巧みな交渉術で、江戸を戦乱から救った勝海舟

みなさんは勝海舟が西郷隆盛を相手におこなった“江戸城無血開城”の交渉をご存知でしょうか。当時、新政府軍を率いる西郷隆盛は、“徳川家打倒”に燃えていました。そして1万人の兵で江戸城を攻めようとしていました。明治も間近に迫った1868(慶応4)年のことです。

一方、江戸城を守っていたのは勝海舟。勝は「新政府軍と旧幕府軍が激突して、江戸の街が戦場になることだけは、何としても避けたい。お互いの話し合いによって、妥協点を見つけられないものだろうか」と考えていました。

しかし西郷隆盛が勝海舟につきつけた「江戸城攻撃を中止するための条件」は、非常に厳しいものでした。

  • 将軍だった徳川慶喜の身柄を差し出しなさい
  • 軍艦や兵器をすぐに引き渡しなさい
  • 関係者を厳重に処罰しなさい
  • 江戸城を明け渡しなさい

これって、「江戸城を攻めてほしくないのなら、全面的に負けを認めなさい」と言っているようなものですよね。西郷の要求は、いくらなんでも勝には受け入れられないものでした。

普通ならこれで「交渉決裂→戦争突入」です。ところが勝は驚異的な交渉力を発揮します。交渉によって江戸城攻撃の中止を実現したばかりか、勝の側からも対案を出し、西郷から大幅な譲歩を引き出すことに成功したのです。その対案とは、以下のようなものでした。

  • 徳川慶喜の身柄は、新政府には差し出しません。慶喜は地元の水戸に帰って、謹慎することにします
  • 軍艦や兵器は引き渡しますが、猶予期間を設けてください
  • 関係者の処罰は、軽いものにしてください
  • この条件を認めてくれたら、江戸城は明け渡してもいいですよ

「慶喜の身柄は引き渡しません」とか「関係者の処罰も軽いものに」とか、なかなか大胆な対案です。しかもその対案を西郷に受け入れさせるとは、「勝さん、あなた相当の交渉上手ですね」という感じです。
 

勝海舟の交渉術は、PPRで説明できる

ではなぜ勝海舟は、西郷隆盛との交渉ごとに成功したのでしょうか。勝海舟が“交渉の達人”であった理由を、理論的に説明してみましょう。

私は交渉においては、Purpose(目的)、Proposal(提案)、Reason(理由)の「PPR」を押さえておくことが大切だと考えています。交渉においては、まずゴールとなる目的(Purpose)を定めます。次に、その目的を実現するための提案(Proposal)を相手に行います。そして提案を受け入れた方がいい理由(Reason)を、相手にきちんと説明することが重要となるのです。

さらに理由を説明するときには、Merit(メリット)、Emotion(感情)、Threat(脅し)の「MET」を用いることが不可欠となります。

METとは
Merit:「メリット」を相手に再確認させたり、刷り込むこと
Emotion:相手の「感情」に訴えかける、ということ
Threat:相手を少し「脅す」ことでより有利な方向に持っていくこと
です。

くわしくは、私が以前書いた「~必勝! 営業マンの交渉術~ 交渉を有利に持っていくためのコツはMET」を参考にしてください。

さて、勝海舟は西郷隆盛との交渉において、この「PPR」と「MET」をしっかりと押さえていました。まずPurpose(目的)は、

  • 江戸が戦場になるのを防ぎ、江戸の市民の平和を守る
  • 日本が内戦になることを避けることで、列強諸国から日本を守る
  • 旧幕府側の人間誰もが、納得のできる案を通す

です。そこで目的を実現するために、勝が西郷に行った提案(Proposal)が、さきほども話したように、

  • 徳川慶喜の身柄は、新政府には差し出しません。慶喜は地元の水戸に帰って、謹慎することにします
  • 軍艦や兵器は引き渡しますが、猶予期間を設けてください
  • 関係者の処罰は、軽いものにしてください
  • この条件を認めてくれたら、江戸城は明け渡してもいいですよ

でした。ただしこの提案を認めさせるには、提案を受け入れた方がいい理由(Reason)を西郷にきちんと説明する必要があります。勝は、Merit(メリット)、Emotion(感情)、Threat(脅し)の3つの面から、「私の提案を受け入れた方がいいよ」と西郷を説得しました。

まずメリット(Merit)は、「戦争を避けた方が、新政府軍側の被害もなくなりますよ」というもの。勝は交渉前に西郷に送った手紙の中で、「旧幕府軍側も強力な軍事力を持っており、対決した場合は手強い相手になりますよ」ということを強調していました。

次に感情面(Emotion)では、「日本の将来を考えれば、こんなことで私たちが争っている場合ではありません。手を取り合って、列強諸国と向かい合っていくべきではないですか」と西郷に訴えかけました。新政府と旧幕府がぶつかって日本の国力が落ちれば、得をするのは日本を植民地にしようと狙っている列強諸国です。日本の将来に危機感を抱いていた西郷にとって、これはかなり説得力があったと思います。

そして最後が脅し(Threat)です。「新政府軍がやろうとしていることは、正義ではありません。イギリスだって見限ってしまったじゃないですか」というもの。じつは西郷は江戸城攻撃にあたって、イギリスに支援を求めたのですが、イギリスはこれを拒否しました。これには勝がひそかにイギリスと接触をして、裏工作をしていたという説があります。

いかがでしょう。“交渉の達人”である勝海舟が、「PPR」と「MET」をしっかりと押さえていたことに納得いただけたでしょうか。みなさんも交渉上手になろうと思ったら、「PPR」と「MET」を意識してみてください。
 

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