クレームの心理学……人はなぜ怒るのか
クレームの心理学
クレームを出すお客様は怒っています。クレームの原因が私たちの過失であろうが、お客様の誤解であろうが、私たちはお客様をなだめ、和解に導かなければなりません。お客様の怒りを静め、和解に導くには、「怒り」の心理的メカニズムを理解することが最も重要です。怒りが発生する仕組みを理解すれば、怒りを静めるためにはどうすればよいかが見えてきます。
では、さっそく「人はなぜ怒るのか」について考えてみましょう。
コントロール感
私たちにとって、物事をコントロールしているという感覚(コントロール感)を持つことは、非常に重要なことです。コントロール感とは、自分が行動することによって、望み通りの状況を作り出せるという感覚のことです。簡単に言えば、自分の望み通りにことが運ぶという感覚です。人は、コントロール感があると、自分自身に満足することができます。逆に、コントロール感がないと、自分自身に満足できなくなります。
私たちが何かをしようとしたとき、他人の行動によってそれができなくなった場合、コントロール感が失われてしまいます。人は、コントロール感を奪われそうになったり、奪われてしまったりすると、状況をコントロールできないことに対して「恐れ」や「不安」を感じ、コントロール感を取り戻そうと防御反応を示します。それが「怒り」です。要するに、自分の思い通りにならないと頭にくるのです。
お客様を怒らせる引き金のひとつは、予期せぬ出来事によって、お客様のコントロール感が奪われてしまうことにあります。
例えば、
今日届くはずの商品が届かない(予期せぬ出来事) → 届いたらすぐに使うつもりだったのに(コントロール感を失う) → 「届かない」状況を自分ではどうにもできない(不安や恐怖) → 頭にくる(防御反応)
店員に失礼な応対をされた(予期せぬ出来事) → 望んでいるような扱いをされない(コントロール感を失う) → 自分は大切に思われていないのでは?(不安や恐怖) → 頭にくる(防御反応)
お客様の怒りを静め、過ちを許してもらう(あるいは誤解を解く)には、お客様の奪われたコントロール感を回復させてあげる必要があります。
怒り……コントロール感を維持するための防衛行動
動物の世界では、群れのなかでの順位が高いほど、ナワバリが大きいほど自由に行動することができます。つまり、より大きいコントロール感を得られます。人間の世界では、社会的な地位の高さや、権限をもって行動できる領域の広さが、コントロール感の大きさになります。怒りはコントロール感を維持するための防衛行動だと言えます。自尊感情
私たちが、自分という存在に満足するには、自分自身を好きでなければなりません。この自分を好きという感情、自分を大切に思う感情、自分の存在を肯定する感情を「自尊感情」といいます。お客様を怒らせる引き金のひとつは、お客様の自尊感情を傷つけてしまうことです。侮辱されたり、失礼な扱いをされたり、大切にされなかったりすると、自分に対する肯定感が薄れ、自己嫌悪になり、自尊感情が傷ついてしまうのです。
人は、自尊感情が高いときは、心に余裕があり、他人に対して思いやりを持つことができます。他人の過ちを許す寛大さを持ち、他人からどう思われようが気になりません。
逆に、自尊感情が低いときは、心に余裕がなく、自分のことで頭が一杯になります。他人の過ちを許すことができず、他人にどう思われているかが気になります。
謝罪に耳を貸さない、和解のための提案を受け入れてくれない。そんなお客様は、自尊感情が傷ついたことで、一時的に自分ことで頭が一杯になり、私たちの過失を許す余裕が持てないのです。お客様の怒りを静め、過ちを許してもらう(あるいは誤解を解く)には、お客様の傷ついた自尊感情を回復させてあげる必要があります。
自尊感情とコントロール感の関係
物事がうまくいっているときは、気分がよくなり多少のことでは怒ったりしないが、物事がうまくいかないときは、イライラして些細なことで腹が立ってしまう。あなたにもそんな経験ありませんか?自尊感情は、コントロール感ともかかわりがあります。私たちは、物事がうまくいく(コントロール感が得られる)ときほど、自分に力があるように思い、自分自身に満足し好感を持ちます。物事がうまくいかない(コントロール感が得られない)ときほど、不足感や無力感を感じ、自分自身に満足できず自己嫌悪に陥ります。
お客様の奪われたコントロール感を回復することは、自尊感情を回復することにもつながるのです。
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