コーチング/人材育成・組織作り

「理解ある上司」ってどんな上司?(2ページ目)

昔であれば仕事優先は当たり前。でも、今はそんなことを言ったら部下が離れていく。かといって、仕事は甘いものではない……。そんな悩み多き上司が「理解ある上司」になるにはどうしたらいいんでしょう?

宇都出 雅巳

執筆者:宇都出 雅巳

コーチング・マネジメントガイド

「理解ある上司」は仕事も人も理解する人

宮城教育大学の菅野仁教授がその著書・『ジンメル・つながりの哲学』で、学生アルバイトに対する上司の例ですが、次のように述べています。

「これは学生からよく聞く例なのだが、学生がアルバイトする際に働きやすくかつ意欲の出る職場には必ず「理解ある上司」がいるようだ。「理解ある上司」とは、彼らが「学生であること」を基本的には認識しながら、かつ仕事場での指導や管理をきちんとしてくれる人のことである」

「理解ある上司」というと、単に自分のわがままを聞いてくれる人に思われるかもしれませんが、このように「仕事場での指導や管理をきちんとしてくれる」というのが一つの条件になっています。そして、同時に、「「学生であること」を基本的に認識しながら」という態度を取っていることが重要なのです。

菅野教授は「理解ある上司」について、さらに言い換えて次のように述べています。

「理解ある上司とは、自分の配下のアルバイターに対して自分との直接的な付き合いでの顔(=役割)以外の顔があることをどこかで常に意識しながらも、<いま・ここ>では仕事への専心性を要求するような上司なのだ(下線は原文では傍点)

仕事だけでもない。かといって、仕事を無視するわけではない。そんな両方を抱え込みながら部下に接する上司が今求められているのです。

部下は仕事をする機械ではなく人間です

コーアクティブ・コーチングの基本的な考え方の一つに「クライアントの人生全体を取り扱う」というものがあります。これは、クライアントが取り上げる課題・問題やそれにかかわる部分だけに焦点を当てるのではなく、その奥にあるクライアントのそのほかの部分を絶えず意識しておくことです。

たとえば、クライアントが課題として仕事でのお客様との関係を取り上げていたとしても、もしかすると家族との関係にもつながっているかもしれません。これはある意味、当然のことです。同じ人間が仕事もし、家族も営み、一つの人生を生きているわけですから。

「理解ある上司」にとっても同じことでしょう。理解ある上司になるために必ずしも部下のプライベートに首を突っ込む必要はありませんし、人生全般の相談に乗ったからといってなれるわけではありません。<いま・ここ>の上司・部下という役割関係を尊重しながらも、部下が一人の人間であるという事実を認め、仕事以外の部分にも意識を向けていくことが大切なのです。

さて、冒頭の山田さんと高橋課長の例に戻りましょう。高橋課長に求められるのは、仕事に関して話し合う必要があれば徹底的に話し合うこと。それにまったく遠慮はいりません。仕事とそれ以外の関係をキッチリと区別することは重要です。と同時に、山田さんを一人の人間として認め、仕事以外の部分にも意識を向けることです。

仕事だけに割り切って考えれば簡単かもしれませんが、人間はそんな簡単に割り切れる存在ではありません。だからこそ、部下を仕事とそれ以外の部分との間をゆらぐ存在として認め、それを支える器が上司に求められるのです。

【参考書籍】
■『ジンメル・つながりの哲学』(菅野仁著 NHKブックス)
■『コーチング・バイブル―人がよりよく生きるための新しいコミュニケーション手法』(ローラ・ウィットワース他著 CTIジャパン訳 東洋経済新報社)

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