「和気あいあい」より「ぶつかり合い」
避けるのではなく、ぶつかり合うことが大事 |
「身体の声」とは感情や感覚であり、「反発性」とは部下のものだけでなく、上司自身のものも含んでいます。
ビジネスの世界では、ついつい「頭の声」が優先されて「身体の声」は無視されがちです。しかし、部下という生身の人間を育てるためには、論理中心の「頭の声」だけでは十分でありません。そして、上司自身と部下の双方の「身体の声」に耳を傾ける必要があるのです。それは必ずしもきれいな体験だったり、簡単に終わるようなものではありません。
「どちらかが一方的に主張を通し相手を屈従させるというのでなく、二人で長期間力を合わせて懸命に紡ぎ出すという体験が大切である。」(前掲書より)
和気あいあいと「いい上司・いい部下」を演じるのではなく、お互いが正直にぶつかり合うことから始まります。それが遠回りに見えても、部下が自立するための近道なのです。
しかし、ついつい上司は先の見えないぶつかり合いを避けようと、きれいな答えを探してしまいます。部下と接する際に参考になるようなパターン別、状況別のアドバイスやマニュアルなどを欲しがってしまうのです。子育てにおける親も同じです。そしてそれに応えるように、世の中には、「この通りやれば大丈夫!」という「専門家」やマニュアル本が氾濫しています。そこで、それに釘をさす提言3が続きます。
マニュアルではなく、部下と向き合おう
■提言3:「専門家」盲信はほどほどに「そういう当事者同士でのすり合わせの苦労を避け、第三者である「専門家」や「メディア」に問題解決のアドバイスや指導を安易に求めてそれに盲従することは、こういった関係構築の絶好のチャンスをみすみす手放すに等しいことである。」(前掲書より)
「困った部下がいるんですが、どう接したらいいでしょう?」とアドバイスを求めてくる上司の多くが、部下ときちんと向き合っていません。部下は思ったとおりに動くモノではなく生身の人間なのです。「どう接したらいいかわからない」という不安な感情を部下に伝え、そこから関係を創っていくしかありません。また、そこから創っていけるのです。そのためには、正しい正解は一つしかないと思い込むのではなく、いい意味の「いい加減さ」を持って、関係を作っていくことが大事になってきます。
■提言4:揺らぎを受容し、いい意味での「いい加減さ」を
「部下には鬼のように厳しく接するべきだ」「受容的に伸び伸びと育てるべきだ」。上司としては何か一つに目標を決めてもらったほうが楽でしょう。しかし、もうお分かりのように、子どもと同様、部下の反応はさまざまで、何か一つに決められるものではありません。
「一回一回のやり取りの結果に一喜一憂するのではなく、ある程度長い時間のなかでの揺らぎをともなった母子双方の関係調整過程に、おおらかに身を委ねてみることがいい結果をもたらすと考える。」(前掲書より)
部下育成に悩んだら、深呼吸して部下をよく見てみましょう。そして自分の中に起きている「身体の声」に耳を傾けてみましょう。あなたがリラックスすることで、何か方向性が見えたり、部下が自分から動き出すかもしれません。
「部下育成とは<部下別れ>の道に他ならない」。いつかは別れる部下です。それまでの限りある時間を、自分も部下も大事にしながら、部下と一緒にすべてを楽しんでみましょう。いい意味で「いい加減」になることが部下育成のカギなのです。
【参考書籍】
■『<子別れ>としての子育て』(根ヶ山光一著 NHKブックス)
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