非日常で自分を知る
ご主人は慌てた。気短な彼は、何事も即座に解決をしなければならない人らしい。理由を問いただすのに家まで待てない。タクシーなんか乗ってられない。どうしようと思案し、ご主人が1、2度入ったことのあるそのバーが近くにあることを思い出し、奥さんを無理矢理連れて入った。
「気が動顛して、どこで話そうかと。仕方なしに入ったんですよ」とご主人。「肩が触れ合う距離で、カクテルを飲みながらポツポツと小声で話してたら、なんか自分が変に深刻ぶっているような気がして」と奥さん。
そして奥さんは「ただ、つまんなかっただけ、だったんですよね。それと暗い照明とカクテル。この非日常の空間にやられちゃった。バーなんて20年くらいご無沙汰でしたもの」とつづけた。
そう。バーの空間と、もうひとつはカウンターにある。前を向いて会話し、時折横の相手のほうへ顔を向ける。これがいいのだ。真っ正面から対峙するから、いざコミュニケーションを取ろうとすると、こじれるのだ。
以来10年近く、夫妻は週に1~2回はそのバーで待ち合わせをしている。
週末はふたりでバーへ行け
バーで、しっとりとした時間を過ごそう |
ある出版社の若い女性編集者が、同棲している彼氏の不満をわたしにぶちまけた。彼女は惰性とか、マンネリを強調した。男の側から見ると違うんだな。どうやら彼氏は、彼女が傍にいることに安心しきっているようで、また母親が息子に接するような愛情、母性愛が恋人にもあると勘違いしているようだった。
「男って、みんな幼稚だぜ」とわたしは言い、こう嘘をつきなさいと伝えた。仕事仲間と居酒屋で飲んで帰った夜でもいいから、ひとりでバーへ行って愉しんだと言い放ちなさい。彼氏はきっと慌てるからと。
彼女はわたしのアドヴァイス通りに言ったらしい。それからは週末の夜は彼氏のほうからバーに誘うようになり、会話も増え、何よりも優しく接してくれるようになったという。
バーの効用ってたいしたもんだ。
酒が飲めなくてもバーは大丈夫。フレッシュフルーツのミックスをノンアルコールでシェークしてくれる店は多い。カクテルが駄目なら、ウイスキーの薄い水割りを嘗めているだけでもいい。
ウイスキーは面白い酒で、飲んでてこれほど自分を意識させてくれる酒はない。自分が自分であることを意識させてくれるのだ。さあ、恋人たちよ、バー・カウンターでウイスキーを飲もう。非日常の刺激をバーでどうぞ。
INDEX「男は読むな!いい女に贈る記事」シリーズと
「22回女性のためにバーの真の効用を伝えよう」も併せてお読みいただきたい。