女性よ、男性を刺激しろ。

今回はグラスの話しをしよう。とはいってもバカラの何たらとか、リーデルがどうしたとか、ブランドの紹介はしない。それを期待している人は、どうか読まないでいただきたい。

今回“女性よグラスを愉しもう”と書くのには訳がある。男性を刺激して欲しいのだ。はっきり言って、いまシングルモルトを飲む男たちを見ていると、私は興醒めする。バーテンダーもいけない。何も言わないと、すぐテイスティンググラスにウイスキーを注ぐ。男たちがテイスティンググラスを鼻に突っ込んで、訳知り顔でノージングしている姿はあまりにも悲しい。哀れだ。
酒を、ウイスキーを、愉しんでいますか、と言いたい。
ワインが語り過ぎるあまりに小難しい酒のイメージを与え、ブームが去ってしまったように、シングルモルトもやたら語る酒となり、危うさを感じる。いったい何割の人がテイスティンググラスで色を見、香りを聞き、味わいを読んで飲んでいるのだろうか。
たとえば色は赤みがかった黄金色、香りはバニラ、キャラメル香、わずかにゴム様、味わいにすっきりとした甘いシェリー、ウッディな熟成感を覚えたとして、それに喜びを感じている人が何人いるのだろうか。とても嘘くさいのだ。
これ旨いな、好きだな、いい時間だな、といった気づかないままに余韻を愉しんでいるような酔い方ではない。そしてバーをカルチャー・スクールにしてはいけない。まあ、ある部分そういう面もあっていいけど。


グラス
ある夜のル・パランのグラス。左からドライ・マティーニ、サイドカー、マンハッタンを飲んだ。
もしあなたがバーのカウンターに座り、目の前のバックバーにグラスがずらりと並んでいたら、その中から自分の好みのグラスを見つけて欲しい。
そして「あのグラスで飲んでみたい」ぐらいなことをバーテンダーに言ってみるといい。もちろんグラスに合う酒、合わない酒というものがあるが、気持ちを伝えることによってバーテンダーもいろいろと考えてくれる。そこから会話も弾んでいく。
伝えにくい、と言うなら、このシリーズで以前からすすめているように女ともだちとふたりで行くこと。ふたりなら何とかなるでしょう。そして場慣れしていないことを告げて、バーテンダーを頼りにすればいい。何回か行って顔見知りになれば楽に口がきけるようになる。
でも最初から臆せず、「あのグラスで飲んでみたいんですけど、どんなお酒、カクテルがおいしいですか」と言ってみるといい。

サイズが違っても、粋がある。

ここで私が気に入っているバーのひとつ、新宿『ル・パラン』の本多啓彰氏のサービスを例にする。
ただこの店は女性におすすめとは言い難いので悪しからず。かつて私は、マーロン・ブランドがここのカウンターでシガーを燻らせていても、何ら不思議のない趣があると書いたことがある。
だから女性ふたりの絵はそぐわないだろう。しかもグラスはアンティークの棚に入れてあるから、どんなグラスでサービスされるかわからない。
写真に示したように、本多氏は通常、ドライ・マティーニには冴えたキレ味を感じさせるシャープなシェープのグラスを使う。私は彼のサイドカーを貴婦人の微笑みとたとえているが、それにはふんわりと柔らかいシェープの広口グラス。そしてマンハッタンにはシャープさがありながら広口で小粋なグラスを使ったりする。
これはそれぞれのカクテルの持つキャラクター・イメージだけの選択ではない。カクテルをグラスに注ぎ、仕上げにレモンやオレンジのピールを擦った時の香りづけの余韻も考慮している。本多氏に限ったことではないし、当然のことでもあるが、バーテンダーは酒とグラスの相性を頭に入れながら、洒落っ気、遊び感覚を持ってサービスしている。(次頁へつづく)