涼風のように飲み去る粋なひと

ひとりきりでバーでの時間を上手に愉しめる女性というのはまだまだ少数派だ。そのせいか、カウンター席にさりげなく座って自分だけの時間を過ごしている女性を見かけると嬉しくなってしまう。男の飲み手にはない格好よさがある。そういう素敵な彼女たちの中から、とくに印象深い3人について語ってみる。
ひとり目は30代半ばの既婚女性で子どもはいない。この人は私の行きつけのバーに週3~4回は登場しているらしい。仕事を終え6時過ぎにはバーの扉を開ける。そして7時半ぐらいまで過ごす。ご主人の帰宅が8時半から9時ぐらいなので、バーでひと息ついてから自宅に帰り夕飯の支度をするという。
彼女はまずジン・トニックかジン・リッキーで喉を潤す。それをひと口飲むと彼女の肩はスッとまるくなる。これが彼女のオンとオフのスイッチの切り換えなのだろう。その後はバーテンダーと軽く世間話をしながら、ある時はギムレット、サイドカー、またある時はダイキリ、マンハッタンといった組み合わせを愉しむ。そして時間がくると、スーッと涼風のように帰って行く。酒を知り、バーを知っている。粋である。


女王を気取ってゆるせる通のひと

涼風の彼女はバーテンダーをひとり占めにする訳でもなく、ほどよい距離感を保って飲む。周囲に嫌がられる客というのは男も女も常連ぶりたがる客。バーテンダーと親しい間柄だということをひけらかしたがる人たち。まあ、バーに集まる人間というのは淋しがり屋が多いから、仕方がないともいえるのだが。
ふたり目は時折女王になってしまうところがあるが、非常に飲み方が格好いい。30代後半で会社社長、独身。この人はいきなりモーツアルト・チョコレート・リキュールのオン・ザ・ロックを注文したりする。おそらく仕事の関係者とのディナーで、デザートを断り、ひとりになりたくてバーへ足を運んだのだろう。
チョコレートはヨーロッパの女性がよくデザート・ドリンクとして飲む。デザート・タイムを“チルドレンズ・アワー”とも表現するが、これは幼児期においしいと感じた味わいがくつろぎとなるからだ。彼女はそれを知っているのだ。ウイスキー好きで、柔らかいブレンデッドやキックの効いたシングルモルトを水との1対1、トワイス・アップでよく飲んでいる。ゆっくり、ゆったり飲む姿がまた格好いい。ただたまに酔って、「私の前でシェーカーを振ってくんなきゃイヤだ」と我がまま女王になる。まあそれも可愛くて、ゆるせる。
さて、最後の3人目は、どんな女性か。(次頁につづく)