その店はベテラン、中堅、若手と世代の違うバーテンダーが揃ったバーで、なかなかに格調がある。私の相手をしてくれたのは中堅の域に入り込んだ30代前半のバーテンダーだった。
店内は常連の男性客が多く、女性は男性に連れられてきたふうなのがふたり、そして年配のよく見かけるご婦人のひとり客の3人だった。
「ここの店は敷居が高く感じられるんでしょうね。若い女性のひとり客っていうのは、あまりいないでしょう」と私は若いバーテンダーに言った。彼は「そうでもないですよ。たしかに多いとは言えませんが、最近は少しずつですが増えてきました」と返した。
その後に彼は興味深いことを言った。
バーテンダーも、初めての女性客がひとりで入店してくると緊張するという。席の空き具合をみて、やたら声をかけそうな男性客からはまず離す。混み合っていて適当な席がない場合は、バーテンダーの誰かが必ずその女性の近くに立つようにするらしい。
「はじめての女性のお客様でも、バーに慣れていらっしゃる方ならこちらも適度な距離を保てるのですが、明らかに慣れていらっしゃらない方には気を遣います。嫌な思いをしていただきたくないですから」
彼はこう言った。そして典型的なパターンを教えてくれた。
男性客が少しずつ話かけてくる。女性客も根負けして、ちょっとならいいかと返答する。男性は調子に乗り、追い討ちをかける。場慣れしていない女性は気弱だから、またつい相手をしてしまう。ふたつ、みっつのやり取りがつづくと、男性は受け入れてくれたと勘違いしてつけあがる、というものだそうだ。
香水だけは、守りきれない
男性客がつけあがる前に、バーテンダーは何とか女性客を守ろうとする。男性が常連客の場合は簡単で、たしなめればそれで終わる。ただ常連でない場合は手間がかかるという。女性客の相手をできるだけして、男性客が入り込めないようにするとか、その男性客の相手を別のバーテンダーがするとか、まあやり方はいろいろだ。「それもバーテンダーの仕事のひとつですから、どうってことでもないんですが、でもこれだけは我々もお手上げっていう女性客がいらっしゃいます」
そう言って彼は苦笑いした。(次頁へつづく)