まずシングルモルトというのがある。これはひとつの蒸溜所、たとえば山崎蒸溜所でつくられたモルト原酒の中から厳選したものだけをヴァッティング(混和)したもので、山崎蒸溜所の個性を伝えるフラッグシップ的なウイスキーだ。だから山崎らしい個性を放つ何タイプかの原酒、いくつもの樽で熟成した原酒が使われる。
ではシングルカスクとは。これはまったくひとつの樽の香味であるから、その樽そのもの、唯一の個性、熟成感を愉しむものだ。それゆえボトリングして製品化される数量は限られている。
シングルカスクとして世に送り出されるものは、実験的なつくり込みをおこなったもの、あるいは非常に稀な熟成をしたものが選ばれる。
未来の原酒の姿を想像する
仲沢氏は製品化するシングルカスクを選び、見守る仕事をつづけている。貯蔵庫へ出かけ、ひと樽、ひと樽サンプルを採り、ブレンダー室へと持ち帰りテイスティングする。そしてひとつひとつのデータをコンピュータに入力していく。
「長くやっていますとね、それぞれの原酒の何年後かの熟成の姿が大体わかってくるものです」
仲沢氏はこう言う。
尊い木の中で熟成する原酒は、貯蔵環境によって香味はそれぞれに異なる。貯蔵庫の場所、庫内に置かれる位置、またスパニッシュオーク、アメリカンオーク、ジャパニーズオークのミズナラといった材質の違い、樽の大きさや形状によっても熟成は違う。
それらを常にチェックし、データ化する。そのデータと経験値によって熟成の未来像が見えてくるのだ。
さてここまで書いてきて申し訳ないのだが、仲沢氏についての詳細はサントリー山崎蒸溜所のホームページをご覧いただきたい。
実は先月8月23日から『職人の肖像』というタイトルで私の連載がはじまった。
毎月1回ひとりずつ計5回、5人紹介していく。その第1回が仲沢氏なのだ。
これ以上書いてしまうと、すべてを伝えたくなるのでこの辺りで止めておく。
いかに重労働か、そしてシングルカスクを選び抜く仕事はどんなものか、是非知っていただきたい。
どうぞ『職人の肖像』第1回へ。