昨年末、ビルの建て替えにより一時休業したが、この3月末、場所を移して新規オープンした。とはいっても同じ渋谷、前の店舗からそう遠くなく、また前と比べるとずっと店を見つけやすい位置に引っ越した。東急文化村の前にスターバックスがある。たしかその二軒ほど先のビルの3階だ。
以前の店舗は地下2階にあったため、“渋谷の地底バー”というキャッチを付けたが、新規店はそうは表現できない。また特長ある2段構えのカウンターもない。 だがスウィートなハスキーヴォイスの人見清子氏は何ら変わることなく、一定の静かなリズムで仕事をしつづけている。
緊張感のあるAWのロゴマークに誘われて店内に入り、すぐに以前店にあったピアノを探した。一番奥にスタンダップピアノは鎮座していて、可憐なシャンデリアの光の下で黒い輝きを放っていた。
かつてカウンター席としてはこれほど長尻にする椅子はないと書いたル・コルビュジェのダイニングチェアは、テーブル席となっている。対をなすテーブルはアイリーンだ。ではカウンター席は何かというとミース。これもまた座り心地がよく、長尻にする。椅子もテーブルも時代的にうまくまとめている。
カウンターはトチの木。バーカウンターに使われる材としては珍しいものではなかろうか。客側の端は木肌を自然のまま残してあり、モダンで硬質になりがちなバー空間に柔らかい印象を与えている。
変わらぬ彼女、変わらぬボトル。
内装を眺めていると、どれもこれも人見氏のお気に入りがしっかりと収まっている気がする。特長的なのはボトル棚。サイズの異なる3種の長方形のライトボックスがオブジェのようにいくつも設置され、その上にボトルが並べられている。化粧品や香水瓶を陳列する感覚だと思うのだが、バーにこのディスプレイを取り入れたのはなかなかに興味深い。
とはいっても、私は内装なんかは実はどうでもいいのだ。人見ちゃんがいつもの笑顔でいてくれ、ハバナクラブを使ったいつものダイキリをつくってくれれば、それで大満足となる。店が新しくなり、内装が変わっても、彼女が一定の変わらぬスタンスでカウンター内に立ってくれていればいい。
変わらないのはボトルの数だ。ウイスキーに限っていえば、以前と同じようにボトル数はさほど多くない。人見氏が吟味したものだけがライトボックスの上に並んでいる。(次頁へつづく)