『エピローグ』へ口開けに行く。
目黒区に住んでいる私には渋谷、恵比寿、目黒は庭みたいなものだが、どうも近すぎて素通りの町でしかない。バーだけでなく他の飲食店でもいい店を何軒か知っているが、頻度はそんなに高くないといえる。思い出したように行く、というのが正直なところだ。酒呑の道を歩む人には2派あるように思う。地域密着型と遠隔地型だ。オッサンを例にすると、地域密着型には家庭が平穏で幸せな方が多い。時に驚異の恐妻家もいるが、それは少ない。遠隔地型とは私のようにできるだけ自宅から遠ざかろうとする、「近づくのはイヤダヨーン、ダヨンのおじさんダヨーン」タイプである。
上/幅のあるカウンターは店内を開放的に見せてくつろげる。下/おすすめのカクテル、ダイキリ(¥1,400) |
ついこの間も、タリラリランと恵比寿の駅近くを歩き、非常に久しぶりに『エピローグ』へ足を運んだ。目黒区近辺ではない、遠隔地の知り合いのバーテンダーに「恵比寿辺りで、おすすめのバーはない」と聞いたら、「最近お客様の中で、エピローグの名を口にされる方が多いですね」との答えが返ってきた。
「ああ、そうだ」である。かつて友人に連れられて行き、今度また行こうと思っていながら遠隔地型のために機会を失っていた。聞いてみるもんだ。あるんだよ。いい店は。
店名は『エピローグ』なのに、夜の幕開けの時間に行ってしまった。別に問題はないのだが、エピローグを早々と考えとかなくっちゃ、と頭を巡らしている愚かな自分が可愛くもある。
ここはモダンな正統派バーで、ウイスキーを飲みたくなる色香がある。入り口脇にはウイスキー樽が置かれ、つい誘惑されてしまう。店内には瀟洒なグラスが飾られ、粋でしっとりとしている。
相手をしてくれたのは店長の齋藤由紀子氏。穏やかな対応をする女性バーテンダーだ。話しているうちに少年のような爽やかさを感じる。カツンというか、コツンとした芯のようなものを彼女に覚える。それがバーテンダーとしてのスピリチュアルな部分なのか、生まれ持った個性なのかわからないが、アイラモルトを上手く効かせたバランスのいいブレンデッド・ウイスキーの香味を連想させる。ひたむきさというか、響いてくるものが彼女にはある。
彼女が年齢を経るほどにバーテンダーとして熟成して行ったとしても、この少年のような堅い芯のような部分は残しておいて欲しいなと思う。若い人にはいい熟成をとオッサンは願うのだ。
そんなことを齋藤氏がシェークしてくれたダイキリ(¥1,400)を飲みながら考えた。ダイキリは旨かった。酸味がカツンと効いてきた。だが甘味もきっちりと潜んでいる。ラム好きのバーテンダーがつくる香味である。(次頁、おすすめウイスキーとつづく)