樽材の学名を冠したバー。
ウイスキーにちょっと詳しい人なら『クエルクス・バー』という店名を聞いて、足を運んでみようかと心が動くことだろう。
店は池袋、明治通り沿いの豊島区役所のすぐ近くになる。目印はモスバーガーで、その隣のビルの地下だ。オーナーバーテンダーは渡辺篤史氏。ウイスキー好きの男が極めてリーズナブルな値段でサービスしている。しかも心底嬉しそうにウイスキー談議をする。値段が気になるだろうが、その前にクエルクスとは何か、ちょっと語っておく。
クエルクス(Quercus)はウイスキー貯蔵熟成の樽材になる英語でいうオークの学名だ。日本ではよく樫(かし)と書かれているものを目にするが、実際は楢(なら)の類になる。昔の人がオークを訳す時に誤って樫としてしまったのが長く伝えつづけられてしまったのだ。
クエルクスはコナラ属の木を指す。ミズナラ、コナラ、ナラガシワなどブナ科の落葉高木で、その一群は楢と呼ばれる。そしてコナラ属の木でつくった樽でないとウイスキーの琥珀色の芳醇な香味は得られない。
通常高さ25メートル、時には高さ50メートル、直径3メートルにも達するほどだが、樽材として使われるのはその中でも樹齢100年以上のものになる。その長寿の木が長期熟成の神秘を生む。
楢という字も威厳がある。酋(おさ)の木と書き、これは壺から酒の香気がもれる様を表す象形文字だ。意味するのは酒づくりの長(おさ)や一族を束ねる長のこと。そしてもうひとつ、樽は尊い木と書く。つまり樽材となる樹齢100年以上の楢の木は、木の王と言ってよい。その木の王で貯蔵熟成するから、なんていったって旨いのだ。
余計なお勉強が長くなったが、バーでクエルクスの名を冠していれば、わかる人はウイスキー好きのバーテンダーがやっているんだなと合点する。ではそろそろ値段について語る。