自戒の念を込めて。
いまはどうも酒を飲みながら、酒を語り過ぎていけない。
歴史的にはじめてシングルモルト・ブームを迎えたせいもある。
バーではシングルモルト、テイスティンググラスの図式が当たり前となり、それをゆったりと愉しむというより、なんだか「ウイスキー勉強中」といった構えた飲み方に見えてしまう客が多い。
本来は酒によって自分を解放し、リラックスした時間を過ごすことが目的であるはずなのに、どうも通ぶらなくっちゃ、といった風潮が強い。
清酒、ワイン、焼酎とつづくブームにもいえることだが、酒をやたらと崇め、酒に翻弄されているような気がしてならない。

ダンディズムなんて言葉は死語になってしまったが、懐古趣味を承知でいえば、その昔ゲッツなダンディと呼ばれた男たちは傍らのウイスキーを名脇役にして上手に遊んでいた。
酒を語ることなく、バーテンダーと世間話に興じ、軽口を叩きながらウイスキーを啜った。若年者はそれに憧れ、ウイスキーとうまく付き合っていこうと背伸びした。
ところがどうもいまのシングルモルト・ブームには画一化されたシーンばかりで、それぞれの飲み手の粋がない。ファッショナブルなように見えるのだが、その姿にダンディズムが匂い、ウイスキーが似合う丈夫にはなかなかお目にかかれない。

では粋な飲み方をどこで知るんだ、ということになる。これはもうベテラン・バーテンダーの店で、六十代の枯れた客の様子をうかがうしかないのだが、それは腰が引けるという人も多いだろう。
すると中堅バーテンダーになるわけだが、カウンターに立つ男がダンディでなくてはどうしようもない。
銀座七丁目、西五番街通りにある『スペリオ』の吉田均氏を紹介する。吉田氏は四十代半ばの男前でとても落ち着きがある。実は私より年長と思っていたのだが、一歳年下と聞いて愕然としたのを覚えている。彼と比べて自分の落ち着きのなさはどうなのだろうと、ちと悲しくなった。

吉田氏の落ち着きは家系にもあるかもしれない。
『スペリオ』は1940年(昭和15年)創業。日本郵船のバーテンダーだった彼の祖父がはじめた。その後、祖母、母と代は移り、彼で四代目となる。おそらく接客に代々備わった天性というものがあるのだろう。
吉田氏の穏やかな接客を受けていると、客のこちらもすごく大人になっていくのがわかる。客をその気にさせるのだ。
そして彼自身に昔の若者が憧れたダンディズムの匂い、ウイスキーの似合う男のイメージが重なる。失礼な言い方だが、紳士でありながらどことなく不良性を感じるからかもしれない。